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絶望の林業 | 田中 淳夫 (著) | 2024年書評48

ESG投資は多くポジティブな評判がありましたが、現在ではすっかり投資対象として魅力が無くなったことを言われ始めています。

林業は日本の伝統的な産業である一方で補助金頼みの苦しい展開がありましたが、バイオマス発電の需要とともに補助金のブーストもあり希望的な視座が増えました。

しかしながら、林業は旧態依然の官僚的な側面や土地所有の区分など難しい側面が多々あります。

本書はそんな林業の難しさをまとめ、かなり絶望的な心境になるものです。 

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📒 Summary + Notes | まとめノート

林業は成長産業?

木の活用はオリンピックの国立競技場を始め注目を浴びてきています。木の価格はここ最近上昇し、円安傾向も続いているので本書の主張と環境が異なってきた部分は多少あるものの、多くの問題は残されてままなのではないでしょうか。

木づかい運動と称される木を活用しようという試みは近年とても注目を浴びています。その背景にあるのは国産の木が多くあまっていることも要因でした。現在少子化の影響もあり住宅需要は現象し木の活用は減ってきています。活用されるものもコスト重視の利益が薄いものが多くなり林業の生産者たちへの還元も多くはありません。

海外の木材は品質もよくコストも抑えられており商社が頑張って築いた商流もあり安定した供給源となり国産の商流へ戻すためにはコストになるケースも増えてきました。

国内の木材は60年かけて育てても4000円程度にしかならず、さらにそこから丸太が曲がっていたり品質が低いとされると半額にまで落ち込みます。

木材住宅に活用する際に戸建てが2000万円程度のものに対して木材価格は通常なら200万円程度。そこを外材ではなく国産材を使うと10%の20万円ほどコストがかかります。外材の安定した供給があり工務店としては国産を使うと手間があるために、その2000万円のコストの中の20万円を提示して上乗せを伝えると家主としては外材を選択するという流れです。

国産材を活用したいという声は従事者からあがるもののハウスメーカー側に国産材の営業に来るケースは稀であり、国産材を活用する流れが整わない状況のようです。

山の木について

木がどこからくるのかというと山で生産されているのは誰しも想像がつきます。山では土地の所有者が曖昧であり、また現場へ行くのにも困難がかかり、所有者を確かめようと区に確認へ行っても個人情報保護の観点で中々所有者が誰であるのかたどり着けない。活用されていない森林が多くあるのが現状です。

森を育む中で大切な作業に間伐があります。間伐により木の生育が変化し、さらには木の運び出しのコストも変動しますが、日本は山に森林があるために整備が難しくあります。

機械を活用してコストを下げようと試みても、機械の稼働率は低くなってしまい、機械化がコストをあげてしまう側面もあるようです。

組織としての林業

木材取引には多くの人が関わります。木は加工されるために加工メーカーは品質が異なる木を好まないために、製材業者からすると高く変えないものが多く含まれる中、木材を運び出した山主は泣く泣く価格を低くして売るしか無い状況も多く見られます。

森林組合など著者がインタビューや取材を行う中で多く見られるのは官僚的な仕事です。ホームページを作成し多く周知しようとしても知らないところから連絡が来ると面倒になるなど、村社会的な発送も多いようです。

木材は乾燥した状態で加工しなければ後に様々な品質問題に発展するために乾燥が必要になるのですが、品種がばらつく国内材では中々難しくロスや在庫管理が難しいと言います。

建築家として木材を活用したいか、というとそう思えない人も多いようで、現代では木材を使用しても壁紙を張ったり、木材に塗装をしてあえて木材と思えない外観に仕上げるなど過去からの価値観変化などもあるでしょうか。

奈良時代の復元建築などに活用する際にも、現代の建築基準が邪魔をしてしまい従来の工法が活用できずに合板を活用せざるを得ないようです。

木材の活用

森のノーベル賞と呼ばれるマルクスヴァーレンべリ賞を受賞したセルロースナノファイバー(CNF)という技術があります。CNFは複合材料でありプラスチックと木材の天然繊維を混合した材料であり剛性も高いというメリットがあり次世代材料として期待されています。

ただし、CNFはプラスチックの利用が不可欠であり、廃棄時に困難もありマイクロプラスチックの流出やコストとしてもネックが多い材料です。

バイオマスは再生可能なエネルギーとしてFITの導入や原発事故の影響もあり実用されてきました。バイオマス発電は年間多くの木材を活用できるのですが、木材チップは海外から輸入されてきており、2016年の市場での供給量が1400万トンであるのに対して、バイオマス発電を賄うための量は3000万トン必要であるという受給バランスが崩れています。

今では価格高騰のために、未利用材のみ使用していた木材チップがすべて木材チップに活用するという山も増えてきてしまっており、本来ロスで賄おうとしていたバイオマス発電へ木材の多くが流れているという構造もあるようです。

ここで絶望的なのがバイオマス発電はFITによる政策的な価格下支えがあるために成り立っているのですが補助がなくなると採算が合わないケースが殆どになり海外では事業が成り立たず閉じるケースも少なくない状態です。

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感想

林業や木材産業はサステナブルの視点で多く語られ、キラキラストーリーが多く見られますが、その割には発展していない流れを見ると採算性が見合わないのでしょうか。

業務上サステナブルの話を良くするのですが、ウケが良いものに木材活用があります。現代の工業化した産業にて、木材の活用は製造段階でかなりコストになり職人仕事も増え、品質の安定も天然素材のために判断が難しく、大量生産には向かない点があります。

そういった観点から天然素材を排除する流れは多く見られた中でそれを先導してきたメーカー側が木材の利用をサステナブルの風流のためにマーケティング目的に活用しようという矛盾が見られます。

天然素材を排除を先導した人たちが天然素材を広告目的で活用しようとしている、というのは皮肉的に見えます。

石油製品があまりにも便利すぎる一方で、その歪が年々大きくなり痛めつけられてきた産業は多くあるでしょう。時代に沿わなかったといえばそれまでな所ではありますが、不可逆な変化を生み出してしまってはもう戻れないのも認識して消費者として行動する、自身にも言えますが中々難しいものがありますよね。

美味しいところだけを享受して次世代に難題を残していくという側面がどの世代にもあるため、忘れないようにしたいと思いました。

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