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森の「恵み」は幻想か―科学者が考える森と人の関係 | 蔵治 光一郎 (著) | 2023年書評85

東京で生活していると、きれいに手入れをされた自然ばかり見ており、緑があるときれいな街だななんて思っていました。偶に山登りや森林浴などをしていると虫は沢山居るし落ち葉も多く倒木も沢山残されている。人の手が入っている林道は写真映えもしますが本当に自然のままにされた森は草木が伸びたものでもあります。

サントリーの森と水の科学などでも紹介されている科学者の蔵治さんの本を読み森について知るとてもいいきっかけになりました。

www.suntory.co.jp

 

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

作用と機能

著者の蔵治さんは作用と機能を明確に区別するべきだと言います。

作用は自然の法則にのっとったもの、つまり人の都合に関わらないものである一方で機能は人間の都合に関わるものです。

森の作用といえば、光合成作用、分解作用、平準化作用、蒸散作用などです。機能というと洪水緩和機能、二酸化炭素吸収機能、木材再生機能などです。

森の伐採は江戸時代ごろから始まりそれは人口の増加に伴う活用によるものです。それに伴いはげ山化する山が発生しました。幕末ごろには燃料としての使用もかなり多くなり明治政府になると植林を行う必要性が広まります。

その後ときは進み高度経済成長になると森の木を伐採しては植林する事がマスコミの報道を含め多くなり、また人々は「木を切って売り、植林作業をして助成金を獲得し、植えた木は高く売れる」という事で伐採しスギやヒノキなどを植え人工林が増えました。

そこから時代が進むと海外からの木材も輸入されることになり高い価格で取引されていた木材価格も下落し、内閣府世論調査でも森林の社会的価値の順位にて木材生産の価値は落ちていき、災害の防止、水資源の確保など環境面への期待が価値として高く評価されています。

森林と水の関係

森の水の流れとして作用は3つあります。雨水を一次的に貯蔵しゆっくり流すという平準化作用、雨水を吸い上げて葉の気孔から蒸発させる蒸散作用、雨水をはや幹に貯蓄して蒸発させる樹冠遮断作用です。

一方で機能に関しては、洪水緩和機能、渇水緩和機能です。人の勝手な都合ですが洪水を緩和するために貯蔵してくれる必要があり、程よく水を流してくれる必要があります。ダムのような機能であり治水、利水機能です。これを緑のダムと呼びます。

森の作用に蒸散作用がある事を考えると、渇水に対しては蒸散作用はマイナスになりますし、絶妙なバランスが必要とされます。

このバランスが崩れる事で災害となりますが、日本はその対応として水を人から遠ざけるような対応をしてきましたが、想定外の規模の自然現象が発生するとどうしても災害となる台風や東日本大震災のようなケースがあります。

答えが出ない議論

洪水や水害に対して木が無くなっているために発生するという話がある一方で、それだけでも説明しきれないというのが今の研究の様子なようです。例えばタイのチャオプラヤ川の氾濫など研究対象になりましたが森の現象以外にも多数の現象が関係しており、最も影響が大きいものに森の現象といえる科学的根拠は無いとされています。

渇水についても同様です。渇水や水不足についても森の影響が神話として語られるのですが、前述した通り森は水を貯蓄する作用もある一方で水を蒸発させる蒸散作用もあります。これらについても土地により条件が大きく異なり、ケースバイケースというのが実情であり結論のでない話になります。また、この結論を調査するためには正確な雨量や流れ出る水の量などの計測が必要になりますが、想定外の自然現象があるような地域では計測がそもそも難しい事も課題にあります。

これは砂漠化にも同様で、伐採がある程度され手入れがされた人工林の方が良いとされるケースもありますが、ある程度落葉や木材がとりのこされることで貯水能力が上がるともされています。砂漠への植林をすることは良いことだとされたり、それを人気のボランティアツアーとされていることもあるのですが、植林により木は水を利用するために、周囲の地域で水不足になってしまう事や植林が成功しない根付かないケースもあります。

水を森にまつわる話が詳しく挙げられていますが、木材の生産、地球温暖化、生態系、景観など多くの人間の欲求に左右され世の中には森の議論が起こっています。

森の活用・価値について

きれいに整備された倒木の無いような森林は美しい景観ではあるのですが、人の手がしっかりと入った森林です。このためには維持のために多くのコストや労働力が必要です。

倒木材に多くの価値があれば人々はそれを活用し持ち出して加工するコストをペイできるのですが、現状木材の価格は大きく落ちており経済合理性が出ていない事が多くあります。炭素の蓄積量としては倒木材が残されたままで活用されないほうが多くなりますが、運び出し加工、燃焼などすることで放出されます。

木質バイオマスのエネルギーは森の近郊で経済合理性を補助する有効なものになりえます。現在ではさらにApple Watchカーボンニュートラルという点を強調されるなど、クリーンエネルギーの価値やカーボンクレジットの価値が高まりつつあります。

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一方で木質バイオマスもそれだけで経済合理性が出るようなものでもなく、製材品として活用されるものがあり、木材が運搬され加工され、そこで出るものを活用する事で経済合理性が満たされるものでもあります。実態として木質バイオマス発電のペレットが海外から輸入されてるという事実も認識しておくべきことでしょうか。

shizen-hatch.net

感想

森の作用と機能について区別しつつ、森に関わる言説に対して紳士かつフェアに纏められている本でした。太陽光発電もそうですが、日本にありがちな状態としては助成金などを目当てにその地域とは関係ない人たちがビジネスを始め、結果として地域経済を発展させるというよりも他者が利益を得て、海外から木質チップを輸入するというような流れができているように、資本主義の利食い者が助成金を得て得をするという側面があるように思います。

そもそも、日本の構造として都市に住む人間が都合の良いように資金分配が起き、不便さを田舎に押し付けてしまっている事もあるように感じます。

森は介入しすぎても、しなさすぎてもいけないですし、その土地土地でトップダウンボトムアップ双方向の舵取りも必要になるものです。木材が高い事を前提として様々な制度づくりが行われ機能不全に陥っていることを著者は指摘しています。

偏った視点ではなく、冷静に両側面を見ながら解説してある本なので説得力もありとても勉強になるものでした。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3rlIbSS 緑の世界史〈上〉 (朝日選書) 単行本 – 1994/6/1 クライブ ポンティング (著), Clive Ponting (原名), 石 弘之 (翻訳), 京都大学環境史研究会 (翻訳)
  2. https://amzn.to/3Ps0VrV 人と森の環境学 単行本 – 2004/10/1 井上 真 (著), 下村 彰男 (著), 白石 則彦 (著), 鈴木 雅一 (著), 酒井 秀夫 (著)
  3. https://amzn.to/3rq4V47 森林水文学 (現代の林学 (6)) 単行本 – 1992/1/1 塚本 良則
  4. https://amzn.to/3PObU0f 森林水文学 POD版 :森林の水のゆくえを科学する 単行本(ソフトカバー) – 2022/8/2 森林水文学編集委員会 (編集)
  5. https://amzn.to/3PNNdB1 地球環境46億年の大変動史 (DOJIN文庫) 文庫 – 2021/9/29 田近 英一 (著)
  6. https://amzn.to/46kCJyh 日本人はどのように森をつくってきたのか 単行本 – 1998/8/1 コンラッド タットマン (著), Conrad Totman (原名), 熊崎 実 (翻訳)
  7. https://amzn.to/3LtDxJe 徳川の歴史再発見 森林の江戸学 単行本 – 2012/2/20 徳川林政史研究所 (著)
  8. https://amzn.to/46mjsga 水が世界を支配する 単行本 – 2011/7/26 スティーブン・ソロモン (著), 矢野 真千子 (翻訳)
  9. https://amzn.to/3t4KJ8r 木材革命―ほんとうの「木の文化の国」が始まる (人間選書) 単行本 – 2005/10/1 村尾 行一 (著)
  10. https://amzn.to/48mnS8t 森林はモリやハヤシではない―私の森林論 単行本 – 2006/6/1 四手井 綱英 (著)
  11. https://amzn.to/3LtDDR6 森林環境と社会 単行本 – 2011/1/1 西川 静一 (著)
  12. https://amzn.to/3PLOuIy 改訂 現代森林政策学 単行本 – 2012/5/21 遠藤 日雄 (鹿児島大学教授) (著)
  13. https://amzn.to/3ENDLqQ 水害―治水と水防の知恵 単行本 – 2010/3/1 宮村 忠 (著)
  14. https://amzn.to/46f8l8o 緑のダムの科学: 減災・森林・水循環 単行本 – 2014/8/4 蔵治 光一郎 (編集), 保屋野 初子 (編集)
  15. https://amzn.to/3LwC9p7 水の革命―森林・食糧生産・河川・流域圏の統合的管理 単行本 – 2008/1/1 イアン カルダー (著), 蔵治 光一郎 (監訳), 林 裕美子 (監訳), Ian R. Calder (原名)
  16. https://amzn.to/3roG9RU 社会的共通資本としての川 単行本 – 2010/11/1 宇沢 弘文 (編集), 大熊 孝 (編集)
  17. https://amzn.to/48n2cZS 森の健康診断―100円グッズで始める市民と研究者の愉快な森林調査 単行本 – 2006/4/1 蔵治 光一郎 (著), 洲崎 燈子 (著), 丹羽 健司 (著)
  18. https://amzn.to/3LyXzSF 図解 これならできる山づくり―人工林再生の新しいやり方 単行本 – 2003/12/1 鋸谷 茂 (著), 大内 正伸 (著)
  19. https://amzn.to/465kihp 人工林荒廃と水・土砂流出の実態 単行本 – 2008/10/17 恩田 裕一 (編集)
  20. https://amzn.to/44WWN8N 流域圏プランニングの時代 ―自然共生型流域圏・都市の再生― 単行本(ソフトカバー) – 2005/4/6 石川 幹子 (編集), 吉川 勝秀 (編集), 岸 由二 (編集)
  21. https://amzn.to/48iia7D 奪われる日本の森外資が水資源を狙っている 単行本 – 2010/3/1 平野 秀樹 (著), 安田 喜憲 (著)