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NO HARD WORK! 無駄ゼロで結果を出すぼくらの働き方 | ジェイソン フリード (著), デイヴィッド ハイネマイヤー ハンソン (著) | 2022年書評#6

アメリカテック企業ベースキャンプのワークスタイルに関する本No Hard Workを読みました。

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📒 Impression and Review | 感想

Ali abdaalの2022おすすめ書の一つの邦訳版のNo Hard Work!を読みました。

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資本主義的な成長!成長!成長!のようなマインドセットが蔓延る中で、「そんなに頑張らなくても穏やかな働き方」を大切にする企業ベースキャンプの仕事哲学に関する本です。

世の中ハードに働いて利益を出そうぜ!みたいな考え方が多いのですが、テック企業のベースキャンプは社員を大切にして持続可能な働き方をしつつも穏やかな働き方で成長を続けています。

本書に書いてあることを一人で実行していこう、というのはかなりの無理筋ではあるとは思う一方で、冷静に考えてみると精神すり減らしてまで仕事していなくても良かった場面、って振り返ると沢山あると思うんですよね。振り返って体力的に頑張ったことやハッスルした、ということが免罪符となって、仕事を正当化する。そうやって臭いものにフタをするような仕事週間を続けることで失っていた穏やかな日々は少なくない気がします。

そんな環境を冷静に振り返られる良いきっかけの本だと思いますし、「うちの会社じゃこんなのできない…」なんて悲観的になるほど実行が難しい本でも無いように思います。(アマゾンのレビューに散見)

コロナをきっかけにリモートワークが始まり、よりよい働き方を知る良い機会になりました。通勤する必要性が無い発見もしましたし、仕事の合間に家事をしてより良い週末を過ごせる。新しい働き方が始まっている時代に読んで見るととても多い気付きがあるように思う本です。

📒 Summary + Notes | まとめノート

Basecamp

本書の著者ジェイソン・フリードはベースキャンプというオンラインワークツール・サービスの会社創業者です。(37シグナルズから社名変更)共著のデイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソンはRuby on Railsの作成者であり共にベースキャンプの共同創設者になります。

Basecamp: About our company

本書で度々出てくる考え方のベースにカームカンパニー(穏やかな会社)という考え方があります。ベストセラーになった「小さなチーム大きな仕事」「強いチームはオフィスを捨てる」ではコロナ以前の世界においてリモートワークのススメなど、持続可能な労働環境について問いかけをしており、2019年になって穏やかな会社の総決算版のようなものが本書にまとめられています。

How an Anti-Growth Mentality Helped Basecamp Grow to Over 2 Million Customers

挑戦的な成長目標を立てて成長を追い求める事を捨ており、夏は週4日制にしたり、休暇は自由、細切れ時間になり効率を失われる働き方では無く、会議など極力無くし、3人チームを基本とし一つのプロジェクトに6週間サイクルで取り組んでいく。

穏やかに働きつつも、成長を続けている企業の働き方の考え方を見ていきましょう。

仕事中毒から抜け出そう

成長が常に求められる現代の会社では、往々にして挑戦的な成長目標を立てて、「頑張る」ことがよしとされています。体力的に「頑張る」事が正義とされている風潮はどこにでも見られますよね。そのがんばることをやめる許可をベースキャンプでは与えています。

ベースキャンプでは毎年の売上目標などは立てません。目標は立てなければならないという理由で設定される事が多く、根拠のない数字を達成目標に掲げられ、4半期に一回ごとにそれを上回ることを暗に求められます。根拠のない目標のために、モラルや健全性を失う判断がされてしまうこともしばしばで、これは様々な不正や倫理観の低下などを導く引き金になりかねません。事業をする上で大事なことは良好な経済発展ができるかどうかです。予測できない未来の目標を立てるのではなく6週間ごとにやることを決めていく、それがベースキャンプでの唯一の計画になります。

大切なのは自分の時間

ベースキャンプでは週40時間を労働時間としそれ以上増えないようにしていると言います。その時間で収まらない時はすることを厳選すべき合図です。

ベースキャンプでは、時間が細切れになり集中できない環境を防ぐ試みをしています。定例会議はなく最新情報はオンライン上で確認できる形でシェアし確認したい時に見らる状況にし、予定は常に余白をつくることを推奨されます。

また同僚から声を書けられ作業時間を分断されるのを防ぐために、オフィスアワーを作り質問していいタイミングを設けています。そんなの急ぎの案件があったら…というような感覚があるかもしれませんが、緊急の案件が今までどれほどあったか振り返ると、人の時間を奪ってまで必要性に駆られる緊急案件なんて以外と少なかったりするものです。

ついつい長く働いてしまうなんて人は、目の前の仕事に集中できる環境を作ることから始めてみると良いかもしれません。

組織文化

よく聞く話で「会社のみんなは家族だ」のような鼻息荒い職場もよくあると思いますが、ベースキャンプでは会社が家族なんて思いは無く、仕事仲間であり、それぞれが家族を大事にできる文化を大切にします。それぞれが良い時間を家族と過ごせるから仕事も良くできますし、会社を家族と考えることによって、夜遅くまで働くことや、週末返上で働くことを「家族のために…」なんて考えさせる負の側面を抑えることもできます。

また、自身がオーナーやマネージャーの時に軽率なアイデアをメンバーとシェアすると、その軽率な発言が重みを持ってメンバーに伝わってしまう可能性があります。日本企業でも、プロジェクトの事を知らない上司が急に入ってきて現実味の無いアイデアを言いそれに振り回されるなんてありますよね。

ベースキャンプは採用に際して即戦力なんて居ないと言います。リーダーとして必要とされるスキルや経験は、職場によってまったく異なります。ベースキャンプでも会社の規模や仕事のフェーズによって必要なスキルは異なってきました。道理に合わない過度な期待は失望を生みます。

給与体制はとても大切な要素です。ベースキャンプでは市場の上位10%(それもサンフランシスコでの市場水準)を基準に給与を支払います。どこに住んでいようともこの基準は変わらずに、また会社売却の予定も無いのでストックオプションの配布はしていません。テック企業にも関わらず離職率が少なく、給与アップのために職を転々とする必要がない状況にする、それは採用のたびに教育するコストも下げる事ができますよね。

また、誰かが会社を去る時には離職者やマネージャーが「別れのあいさつ」を社員に向けて送り理由を伝えます。それは解雇する場合も同じで、どういった理由で解雇の判断になったのか会社側からのメッセージになります。透明性を持って納得感のある形で離れる人・残る人にとってできる限り穏やかな状態で分かれることを目指しています。

仕事の仕方

前述しましたが、ベースキャンプでは人の時間を奪うことを避けるためリアルタイムでのやり取りが求められるチャットや電話などのコミュニケーションは極力無くしています。グループチャットでの決定事項などは同意しているかどうかが曖昧ですし、記録も残りにくく後々問題になることがあります。人は長く続けていることほど帰るのは難しく、「あとで」変えようはいい心がけが死ぬ場所だと言います。

この本で一番おもしろいなと感じたもので、判断について、があります。

アマゾンのジェフ・ベゾスが社員に送った手紙を例に出し「(判断には)反対だけど、コミットする」というものがあります。判断はプロジェクトの担当者が行うべきであり判断を委ねます。そういった時は、社長や上司に対して納得させようとするには意思決定まで恐ろしく時間がかかり、上司の承認で疲弊してしまいます。ベースキャンプではアイデアをシェアし冷静に考え、判断を決定し、その理由を関係者に明確に説明し、判断を委ねるのではなくコミットを求めます。

日系企業でよくあるイメージですが、「俺と違う判断するならやってみろよ(俺は認めないしコミットもしない)」みたいなことが少なく無い気もします。そうするとまたモラルや倫理観に欠けるアクションの引き金になりかねませんし、穏やかな環境とは程遠いですよね。

他にも「なんとしてもやり抜く」という状況はすでにプロジェクトがうまく言っていない合図であることや、何もしないという選択肢を勇気を持って持つことの大切さ。「いくら効率よくしても、する必要のないことをしていたら意味がない」というピーター・ドラッガーの言葉のようにする必要のないことやしたくないことは断固たる決意で排除することの大切さが語られています。

ビジネスに対するスタンス

ベースキャンプでは時にリスクのあると思われるようなこともします。例としてベースキャンプが月額料金を新規会員に対して引き上げを行ったことです。今までの会員は料金据え置きで、3倍に料金変更をしました。この時、ヒアリングやテストなどは実施せず、シミュレーションはシミュレーションの範疇から抜け出せず、時に判断を鈍らせる結果を突きつけられるだけのことに時間を費やさずに実行されました。実施から6ヶ月という期間で必要であれば変更をしようという期限をもうけて。結果として新規会員も順調に増え成功に終わります。

ベースキャンプではVIP客のようなサービス展開をしていません。顧客のレベル分けをするとVIP客の要望に振り回されたり、したくないことに時間を費やすリスクが生まれます。健全な環境に会社がいるためには顧客形態のケアが必要です。

また、製品を市場に出す際には「市場で真実を知る」というモットーでベストだと思うものを世に出し反応を見ます。テストや調査で製品のローンチ判断をすることは無いようです。また、顧客に対して新規システムローンチの約束などをすると、その約束に左右されて仕事が圧迫されてしまう事があるため、約束は極力しないように注意します。

穏やかに仕事をするためには、持続可能な、制御可能なサイズの仕事をしていくことがとても大切です。立ち止まって考えてみたら、なんだ当たり前では、みたいな内容が多いかもしれませんが、ビジネスをする上で「成長神話」に囚われてしまい常に圧迫されて仕事をしている、なんて状態に陥っているかもしれません。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://basecamp.com/ ベースキャンプのウェブサイト
  2. https://nira.com/basecamp-history/
  3. https://basecamp.com/about/speaks ベースキャンプのスタッフのトーク
  4. https://knowyourteam.com/ 会社について
  5. https://basecamp.com/handbook 社員用のハンドブック
  6. https://archive.signalvnoise.com/ 新しいアイデアや意見についてのブログ
  7. https://amzn.to/3txpHxt 天才たちの日課
  8. https://amzn.to/3Ia1SzL 英語版 It Doesn’t Have to Be Crazy at Work (English Edition) Kindle版 英語版 Jason Fried (著), David Heinemeier Hansson (著)

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