日本のAI技術者集団プリファード・ネットワークスの本を読みました。
日本で技術者を大切にする文化は比較的薄く感じますが、PFNの文化や思いを知るととても希望を持つ感覚になりました。
特に他国に比べて遅れをとっているAIの分野で技術者が活躍できる企業はかなり少ないと思いますし、こういった企業に多くの資本が流れて欲しいと思います。
📒 Summary + Notes | まとめノート
Preferred Networks
Preferred Networksという会社の物語の本、Learn or Die 死ぬ気で学べを読みました。
日本で最も期待されているAI技術者集団の会社なのですが、創業者である西川徹、岡野原大輔両者がどのように育ち、どのような思いを持ち会社を作り、また資金調達をするようになったか、といった事を知ることができます。
PFI(Preferred Infrastructure)からPFN(Preferred Networks)へと会社が変わる中でNTT、ファナック、トヨタ、博報堂DYHD、三井物産、みずほ銀行、日立製作所、中外製薬、東京エレクトロン、JXTG、と多くの会社から、またかなり高額の資金調達に成功しています。
重点領域は交通システム(自動運転、コネクテッドカー)、製造業、バイオヘルスケアの3つであり、深層学習をキラーアプリケーションとして3領域の問題解決に望んでいます。
機械が自分たちで自律して学んでいくような事が深層学習を活用することで可能になりつつあり、ものを仕分けて整理したり、片付けたり、というような事が可能になりつつあるようです。
創業者たちの生い立ち
創業者の西川徹さん、岡野原大輔さんは共に1982年生まれで東大の同級生です。コンピューターが共に大好きで小さい頃はペーパープログラミングをして遊んでいたそうです。
二人は東大理科1類の合宿で出会い、お互いに意気投合。それぞれ得意分野が異なりチームとして働くためにそれがちょうど良く得意な分野を補完しあいながら成長していきます。
二人はバイオベンチャーでアルバイトしており、会社文化に影響を与える出来事が起こります。バイオベンチャーはVCの出資を受けており実験側(ウェット)とコンピューター仕事(ドライ)のどちらかに重点を置く必要が出てきた際にドライが切り離され突然アルバイトがなくなったそうです。そこでこのメンバーで会社と作り何かしよう、という思いが生まれた一方でVCからの出資は受けないでおこうと決意したようです。
PFIの最初の商品は大規模検索エンジン「Sedue」。技術者が活躍できるように下請け業務は無くし好奇心を探求するように新技術を追う姿勢でしたが、商品がなかなか売れずに売上が立ちません。VCからの出資は断っていた一方で、おもしろかったのはVCづてに聞いた会社エフルートへ提供する事が決まり、みんなでジンギスカンで祝ったそうです。
パラダイムシフト
2011年、機械学習の研究者Andrew NgがGoogleに入り、深層学習を使うことで人が教えることなく猫が認識できるようになる技術を論文にまとめます。その後画像認識コンペでトロント大学のGeoffrey Everest Hinton教授が2位をぶっちぎりで優勝しました。
http://ニューラルネットの逆襲 - Preferred Networks Research & Development
当時の衝撃をブログにまとめられています。これをきっかけにPFNでも深層学習を取り入れるべきなのでは?ということでこの技術を取り入れようとします。
一方で当時この判断は中々難しく、ニューラルネットワークを捨てて深層学習に乗り換えていくのは新しく面白い技術が本当にメインストリームになるのかまだわからなく、悩みに悩みます。
その中でファナックの工場見学する機械に恵まれそこでロボットのできることや課題を見つけ出し、深層強化学習をすることによりロボットがよりうまく機能するのではと思いロボット事業への注力を決意します。
PFNの価値基準
2018年にPFN Values(行動規範)を定め公開します。
- Motivation Driven(熱意を元に)
- Learn or Die(死ぬ気で学べ)
- Proud, but Humble(誇りを持って、しかし謙虚に)
- Boldly do what no one has done before(誰もしたことがないことを大胆に為せ)
ブログや本に技術をまとめ公開しているPFNのメンバーですが、技術追求の精神がとても興味深いです。新しい技術を学ぶことにより、今まで解けなかった問題が芋づる式で解けるようになる、という事があるようで、そのタイミングを逃さないという事を大事にしているようです。20%ルールであったり、PFN DayやSlackでの関わりの無いメンバーにもやっている事をシェアし、興味がある人が参加できるようにオープンにしています。
学習し続ける文化を大切にし、変化していくことにとてもオープンな文化です。新しい技術を学び、社会問題につなげて考え、持続可能なビジネスを見つける。技術者が面白いと思える環境を大切にしていると言います。
役に立ち普遍的な問題に取り組むということで、動機づけの分類4象限にあるパスツール象限の位置にある動機づけを目指し、理論的にも意味があり、かつ役に立つような領域に取り組む事を大事にしています。
AIを活用することによって、深層学習のようなブラックボックスを通じて何故か急にうまくいく、といった時もあるようで、そういった物事に対して企業に説明や理解してもらう必要がある、という事も書いてあります。日本企業あるあるなのかもしれませんが、「なぜなぜ分析」といったような文化があり、ブラックボックスを良しとしないケースがかなり多く、「なぜなぜ」で事象をこねくりまわし結局わからず物事が進まないなんてこともよくあるように感じます。
AIや深層学習といった物事を今後より活用していく流れを考えると、このブラックボックスを受け入れていき、「何故か分からないけどうまくいった」みたいな事も受け入れることが大事になってくるかもしれませんね。
自由を得るために
バイオベンチャーでのアルバイト時にVC出資による会社経営への口出しを見ておりVC含め外部からの出資を拒んでいましたが、売上が無いとできることが限られてくるために出資への考えは変わり始めます。
出資を受けることによってより自由にできることが増え、シナジーが生み出せる事業があると気が付きNTT、ファナック、トヨタ自動車などから大きな出資を得ることになりました。
一方で、下請けや受託などの時間だけ取られるビジネスは自分たちがやらなくても良い事業はしないようにしているそうです。
さらに、絶対にできると思えることはやらず、失敗をできる環境にする大切さも問います。失敗で評価が下がる、失敗する覚悟を持って事に臨まないのは嫌だ、失敗することを難しいことをやってほしいというマインドで挑戦を良しとしています。
今PFNが注目しているのは最初にも上げましたが、パーソナルロボット、自動運転、バイオの分野に深層学習を用いた問題解決です。日本最高峰の技術者集団がこの分野でどう問題を解決していくのか、これからもとても楽しみです。
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