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脳は世界をどう見ているのか 知能の謎を解く「1000の脳」理論 | ジェフ ホーキンス (著), 大田 直子 (翻訳) | 2023年書評103

ビル・ゲイツが2021年の記憶に残る5冊の中に選んび、さらにAIに関するおすすめ本としても取り上げたA Thousand Brains(脳は世界をどう見ているのか:良いタイトル訳ですね!)を読みました。

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最近はOpen AIの生成系AIと呼ばれるChat GPTや、先日GoogleがGeminiを発表して話題になっているAIですが、著者のジェフ・ホーキンスはAIの先駆けとなるようなPalmの創業者であり、本来はAGI(汎用AI)を研究する場所を探していたが、どこに言っても無理そうだということで起業をしPalmで成功した後に、レッドウッド神経科学研究所を設立しています。

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

脳についての新しい理解

脳の仕組みについては道な事がたくさんあり、欧州のヒューマンブレインプロジェクトや国際ブレインイニシアチブのような国家的、国際的な取り組みが多く生まれています。科学者に言わせてみればまだ何もわかっていないというのがコンセンサスです。

1979年、DNA研究で知られるフランシス・クリックが「脳について考える」という小論を書いており当時の研究を幅広く纏めました。著者のジェフ・ホーキンスはMITの大学院生を志願したがAI研究のために脳をまず研究するという考えは受け入れられず、バークレー神経科学博士号プログラムに登録します。そこで脳皮質の理論について研究したいと説明します。しかし、どこにもそれをしている研究者は見つかりませんでした。

バークレーに身を置きながら神経科学にまつわる文献を読み漁り2年が経った後に産業界で働き、そのあと学界でチャンスを見出すことにし、パームコンピューティングを設立。その後レッドウッド神経科学研究所を設立しました。

ジェフ・ホーキンスは新皮質の重要性に気が付きます。新皮質には古い部分もあれば新しい部分もあり、脳容積の3/4を占めています。新皮質内の詳細な回路を始めて見た人物は、サンティアゴ・ラモン・イ・カハルで、薄く切った新皮質のニューロンを観察しました。(https://es.wikipedia.org/wiki/Santiago_Ramón_y_Cajal)

「意識する脳(The Mindful Brain)」はヴァーノンマウントキャッスルにより発表されます。脳について書かれた研究論文の中でもいまだに象徴的なものであり、ジェフ・ホーキンスに大きな影響を与えます。

マウントキャッスルあ新皮質は同じものを、つまり基本回路のコピーをたくさんつくることによってい大きくなったと主張します。運動野や感覚野と区別して考えられていた神経は基本的に同じ構造であり、新皮質の局所的なモジュール回路について、その動作モードの解明を一般化することに意味があると主張しました。マウントキャッスルはさらに皮質のコラムについて言及しており、コラム、ミニコラムの存在について記しています。

この新皮質に焦点があたり、新皮質の仕組みについて解明したいという事が最大のパズルとなっています。

ジェフ・ホーキンスの主張によるし、新皮質は予想するものであり、予測が新皮質の普遍的な機能であると考えます。これは前著「考える脳 考えるコンピューター」にて主張されている。新皮質は世界のモデルを学び、そのモデルにもとづいて予測していると言います。

新皮質は生まれた時は何も知らない状態であり、どの部位が眼とつながるのか、耳につながるのかは遺伝子が決める。経験を通して新皮質は世界の豊かで複雑なモデルを学習すると考えています。これは人が動くことも重要であり、脳が入力の変化を観察することにより世界のモデルを学習します。

「膨大な数のほぼそっくりの皮質コラムからなる新皮質は、どうやって動きから世界の予測モデルを学習するのか?」という問いがホーキンスのチームが目指した疑問であり、これに答えられることによって新皮質をリバースエンジニアリングできると考えています。

レッドウッド神経科学研究所にて発見したことは大きく2つあります。

  1. 新皮質は世界の予測モデルを学習する
  2. 予測はニューロン内部で起こる
  3. 皮質コラムの秘密は座標系

予測状態にあるニューロンは活動電位を発生し、ほかのニューロンの抑制がされます。予想外の入力が到達すると、複数のニューロンが一度に発火します。入力が予想されていれば、予測状態のニューロンだけが活性化し、予想外の入力があればはるかに多くの活動を引き起こします。このモデルをシュミレーションソフトに落とし込んで「なぜニューロンに何千ものシナプスがあるのか、新皮質内のシーケンス記憶理論」と題した論文に纏めました。

ニューロンの活動の次には、座標系についてです。これについては本書を執筆している段階においても徹底した検証はしきれていない一方で、証拠は増え続けており、いつか理論の証拠となる論文が発表されることを待ちたいと思います。

座標系は今まで解明されていなかった考え方のキーのものであり、思考も説明がつきます。ホーキンスは時間をかけながらも座標系の重要性から、座標系により説明できる事象をまとめていきます。

  1. 座標系は新皮質のいたるところに存在する
  2. 座標系は物体だけでなく私たちが知っていることすべてをモデル化するのに使われる
  3. すべての知識は座標系に対する位置に保存される
  4. 考えることは一種の動きである

機械の知能

ホーキンスはクーンの「科学革命の構造」を引用して、パラダイムがひっくり返される現代の脳研究について言及している。新皮質の仕組みについて解明が進み、次は本来のゴールであるAIについてです。当時ポケットサイズのコンピューター(スマートフォン)は存在しなかったが、ホーキンスは小型化が起きていることからやがてコンピューターは携帯型になり人々が使うと予測していました。

インテルのムーアにさえも携帯型コンピューターの構築についてはピンとこない印象を持たれていたが、ホーキンスはパームを設立し、AIの第一歩となる起業を成功させました。

最近話題にもなるAGI(汎用人工知能)と呼ばれるものと、現在使われている限定的なAIとは明確に区別しています。AGIを作成するには上述した新皮質の座標系に該当する原理が含まれておらず、真の知的機械にはならないというのがホーキンスの考えです。

知的であるとはどういうことか?を考えると今のAIは非常に限定的です。

  1. たえず学習する
  2. 動きによって学習する
  3. たくさんのモデルをもつ
  4. 知識を保存するのに座標系を使う

仮に知的機械となった場合についても、現在のSF的なAIの話のようなものにはならないというのも説明されています。世界のモデルを学習する知能は動きが必要であり、そのためには身体性が欠かせないものになります。知的機械についても感覚器官(センサー)とそれを動かす能力が必要になりますが、人間のような複雑なものを持つことは非常に難しいです。

また、古い脳と表現されている経験からなる基礎的な動作の、2本足でバランスを取る、歩く、走るなどに重要な部分に相当するものが備え付ける事が難しくもあります。

知的機械は目標と動機をもつ必要もあります。人間には3大欲求と呼ばれるものであったり、文化的なものもありこれを機械に持たせるのはとても難しい。仮に新皮質の仕組みが解明されても新皮質は目標や動機や感情は生み出しません。

一方で、現在のAI技術が解決している物事もあり、それは経時変化しないで継続的な学習を必要としない、静的問題です。囲碁のルールや、画像の分類のようなものは静的問題でありこれらに関しては人間は勝てないかもしれません。

機械の脳による危機に関して反証するのに加えて、本書では脳のアップロードによる不老不死的な概念にも語られています。これについては脳をアップロードしたからと言って私達の身体や脳はそれ以後の経験は塗り替えて行く必要があります。身体性が無い場所に保管しても体が無いためにSFの世界で語られるようなものにはならないでしょう。

感想

本書の後半にてホーキンスは脳について知っておいてほしい事を伝えるために書いた事をまとめています。人々が様々な歴史や物理運動を見つけてきたように、自分たちに備わっている脳という仕組みについて理解することはとても重要なことでしょう。

今までわかっていなかった事がわかってきているパラダイム・シフトの時代が起きているというのはmRNAワクチンの開発でノーベル賞を受賞したカタリン・カリコ氏も述べており、本書では脳について同様の時代が起きている事を伝えてくれて言います。

AGIとAIの違いはまだ非常に大きくあり、今AIが毎日の話題ではありますが、ロボットが人類を滅ぼすという自我を持ち始めるためには脳の座標系の仕組みのみではなく、そこに目的や動機が必要であり、また脳のコンピューター化には仕組み的な難しさから、身体性の無さによる学習していくという事ができない欠点があります。

人間は古い脳に抗えないように体に悪い甘い食べ物を食べてしまうことも紹介されておりその人間らしい欠点も脳の仕組みの解明により理解されつつあります。

読んでから少し時間が経ってから書評を書いており、結局2回読むのに近い作業をしてしまい、難しい内容も多く分かりづらい内容になってしまったかもしれませんが、この素晴らしい本を読むきっかけになると嬉しく思います。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/4861CyB 種の起源〈上〉 (光文社古典新訳文庫) 文庫 – 2009/9/20 チャールズ ダーウィン (著), Charles Darwin (原名), 渡辺 政隆 (翻訳)
  2. https://amzn.to/4ackMEM 悪魔に仕える牧師 単行本 – 2004/4/23 リチャード・ドーキンス (著), 垂水 雄二 (翻訳)
  3. https://ascii.jp/elem/000/004/094/4094424/
  4. https://amzn.to/3uFI7hV The Mindful Brain: Cortical Organization and the Group-Selective Theory of Higher Brain Function ペーパーバック – 1982/3/30 英語版 Gerald M. M Edelman (著), Vernon B. Mountcastle (著)
  5. https://amzn.to/47K2dXb 考える脳 考えるコンピューター〔新版〕 (ハヤカワ文庫NF) Kindle版 ジェフ ホーキンス (著), サンドラ ブレイクスリー (著), 伊藤 文英 (翻訳)
  6. https://amzn.to/3Gwdmi7 Perceptual Neuroscience: The Cerebral Cortex ハードカバー – イラスト付き, 1998/12/15 英語版 Vernon B. Mountcastle (著)
  7. https://amzn.to/4870CdK 科学革命の構造 新版 単行本 – スペシャル・エディション, 2023/6/13 トマス・S・クーン (原著), イアン・ハッキング (解説), 青木薫 (翻訳)