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生涯弁護人 事件ファイル1 | 弘中 惇一郎 (著) | 2023年書評#33

日本の刑事裁判の有罪率は99.9%とほぼ100%近くを推移しており先進国の中で最も高いと言われております。

引用元:https://asiro.co.jp/media/keiji/14522/

その中で村木厚子さんの無罪判決は多くの話題を呼びました。この裁判を担当したのは弘中弁護士を始めとする弁護団であります。本書は弘中弁護士が裁判の中で好奇心を元に何が起きておりどのような結論になったのか、自身が担当した裁判の履歴をまとめたものです。

読みすすめる中で日本が持つ歪な構造であったり、刑事裁判の影にどんな思惑があったのかなど自身の体験を書かれておりとても興味深いものでありました。

 

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📒 Summary + Notes | まとめノート

村木厚子小沢一郎事件

村木さんは当時厚労省の局長に女性キャリアとして大抜擢されていた方になります。発端は凛の会と呼ばれる障害者団体が障害者郵便割引制度を利用して大量のダイレクトメールを送るための証明書偽造に関わったとされ逮捕されることになります。

逮捕される以前に村木さんは弘中弁護士とコンタクトを取り、捜査・逮捕された場合には事件に関わるとされるものは全て押収されるために可能な限りコピーを取り弁護士に渡すようにとアドバイスを受け行動へと移します。

逮捕の背景に大阪地検は検察によりストーリーを作り上げ、村木さんの部下に対して供述を求めます。このストーリーのように供述しろという事で圧力を受けると中々拒むのは難しく供述調書を取られてしまい、また村木さんは信頼していた部下から事実と異なる供述が出てきていると伝えられる事で精神的にかなり追い込まれてしまいます。

その中でも弘中弁護士と面会する中で、取調室で検察からストーリーに沿った供述をしろと言われたということを相談すると、それを手紙に残し、公証人役場で確定日付を取得。裁判の際に証拠として提示されても証拠としての信憑性を示せない材料として記録しておきました。

結果として裁判をする中で検察が作り上げたストーリーにボロが見られており、また証拠づくりの場に検察が居たというような証言を自らしてしまうなど、弘中弁護士も検察の証拠として適切でない物事に対して指摘し、結果として検事が逮捕されるという幕切れになり、村木さんの無罪が判決でくだされます。

中々リアルなのが、検察は一度逮捕したら途中で無罪と気がついても引き下がれないこと。犯罪とするためにはフロッピーディスクの改竄や精神的にも追い詰めて真実でない供述を出させること、押収した証拠は返さずに有利なもののみ裁判に出すなどとありとあらゆる手段を使ってきます。

何よりも村木さんの精神力が強かったことや、その人柄からの協力者が多く居たことなどが結果として無罪判決に繋がったと言います。

これは小沢一郎事件でも同様でした。国策捜査により当時民主党党員であった小沢一郎氏は検察改革を掲げており、政権交代が差し迫った状況で検察への大きな影響を与えかねない要因となっていました。検察官調書がでっちあげであったことが録音データからわかります。初期から検察のストーリーも無理が生じていたようだったことから無罪判決となりました。

一方で、小沢一郎氏は事件の影響で失脚し、マスコミも裁判の結果が出るまでは小沢叩き。また記者達へのリークなどもあり世論は完全に小沢氏へアゲインストでした。そういった意味では当初の目的は達成されて政権交代後に小沢氏の影響力は弱くなっていました。

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政治の季節

弘中弁護士の学生時代の話などが書かれていた部分があります。弘中弁護士は東大の法学部に通っており、学生闘争のど真ん中に居ました。在学中は「法律相談所」というサークルに在籍し、サークルの先輩と同様に通産省の面接を受け内定を受けていました。しかしながら、父親から言われていた「会社や役所なんか勤めるものじゃない」という言葉に影響と受けてか受けなくてか弁護士へと踏み出します。

司法研修所に入り、研修生時代はヘルメットをかぶり学生運動にも混じっていたようで東大裁判が最初の担当となりました。被告人が執行猶予となり告訴しなかったために担当は終わることになったようで、当時の学生は学校や国に対して安田講堂を占拠したり、裁判で闘うというのを聞くと熱い気持ちを感じます。(良いのか悪いのかは別として)

クロマイ薬害事件・クロロキン薬害事件

日本では四大公害が有名なように高度経済成長の副作用としてか多くの薬害事件がありました。当時クロマイ(クロラムフェニコール)は万能薬のように扱われており、多く使用。軽症でも使用する医者が多くあったものでした。一方でFDAにおいて1952年にその危険性から警告の表示義務や、軽い症状での使用が禁止されます。

本事件はクロマイを投与されて死に至った千華さんに対する、クロマイの販売会社と投与した医師4名を相手取った裁判になります。薬剤投与と健康状態の因果関係は証明がとても難しく、疑いがあっても原因にする難しさがあったと言います。また、国や医師側からの猛烈な抵抗にあい、医師に対してアドバイスや薬に関しての情報収集も日本ではままならない状態でした。

一方アメリカでは、クロマイは有害性が認められておりある意味当たり前なことであったことから、アメリカのクロマイと再生不良性貧血の権威であったユニス氏とコンタクト。大きな助けを得られたと言います。

ただし、その中でも裁判官が度重なる交代があり何度も説明をやり直す状態に陥ったり、和解交渉を進められるなど被害者の両親に対しても中々心が折れそうになる状況が生まれたようです。和解金に関しての計算も、女性の社会進出が進んでいない時代において低く見積もられた額やインフレ率を含まない提案など何を正解といえるのか分からない答えのない・納得感の得にくい部分もあったようです。

クロロキン薬害事件も同様に多くの被害者(失明患者)を出した薬害事件です。腎炎の治療として使われていたクロロキンは、論文などにも効果が報告されていましたが、使用されていたのは日本だけというものでした。調べてみるとその論文の検証内容も科学的というものではなく、10人の被験者に飲ませてみただけで対照群も無いもので、薬の効果が判定不可能であるというながらも結論には効果があるとするものだったと言います。

中々衝撃だったのは、服用していた官僚が製薬会社の重役から重篤な副作用があるかもしれないということをこっそり聞いており服用を辞めていたなどの事実があったことです。商売になるから売りたいが、売っている側は問題があることを知っており言わなかった。また厚生省と製薬会社の強い関係性からも中々難しいことが多かったと言います。

結果として勝訴することになったのですが、主張していた①しっていたけども故意に薬害を引き起こした②そのために損害賠償は通常よりも高額になる③インフレ算入すべき、という3点は認められずだったそうです。

三浦和義事件

親族に芸能人がおり、ハンサムでスポーツカーを乗り回す。世界中と飛び回り夜は派手に女性遊びをするという三浦氏の周りで事件が起きます。ロス疑惑と呼ばれる事件は二回あり、一回目はホテルの部屋にて女性が殴られるという殴打事件、2回目は襲撃され三浦氏と一緒にいた女性が打たれ死亡した事件です。

びっくりしたのはこの際に三浦氏が米軍に働きかけヘリコプターを呼出、日本へ輸送し治療を受けたということでした。

ひょんなことから弘中弁護士へコンタクトがあり好奇心もあり弁護を担当。当時はマスコミの劇場型報道により完全なる悪者扱いだった中での弁護でした。

弘中弁護士は現場検証を行い、また目撃者の証言など集め、本人が保険金目的で人を殺害計画する理由も無いということを取りまとめます。面白いのは現地へと趣、事件のあったホテルの部屋を予約し徹底的に現場検証、寸法の測定などして証言にどれほど信憑性があるのか確認していたと言います。また銃撃現場の目撃者も遠く離れたビルから仕事中に見ていた証言でありかなり曖昧なものであるということがわかりました。

そんな中行われた一審判決ではまさかの無期懲役判決で耳を疑います。その後、再度の現場検証など実施し、結果逆転無罪となります。

興味深かったのはこの原因を振り返り3点挙げられています。

事件の筋が良いこと:被告人の主張に合理性・一貫性があって信頼でき、周囲の人たちが支えている

弁護人がやるべきことをきちんとやること:一審で足りない部分の立証ができたこと

裁判官がまともであること:まっとうな裁判管でない場合、非合理な判決もある

マスコミが行った事実無根の報道に対して片っ端から名誉毀損の訴訟を行い、裁判費用を賄っていたというのも興味深い点でした。しかもこれはほぼ三浦氏が行い530件もの中で弘中弁護士が担当していたのはほんの1割だけだったそうです。

その後まさかの展開となるのは、アメリカ側での捜査が進行中であり、後年にアメリカ領と知らずサイパン旅行した際に拘束されることとなります。ロサンゼルスへ移送され言葉も分からない中結果として首を吊って死亡することになりました。(他殺とする結論もあり)

この背景にあったのはオリンピックを控えた中で外国人が銃撃されるという事件を起こしてしまったロサンゼルスの捜査当局にいたジミー佐古田氏の執念では無いかと言います。ロス疑惑を機に結果として責任を取り退職することになっていた同氏は捜査を続け拘束の機会を伺っていたようです。

感想

裁判や検察などと聞くと中々興味を持って知ることができず、弘中弁護士の本書を通じて様々な事件を詳細に追うことができるのはとても面白いものでした。

一つひとつ事件に当たり前ですが、様々な思惑が渦巻いており、結局本人ではないので何が真実かは分からないですが、その中でも証言や現場検証をしながら裁判官へと説明をする。

事件の内容で分からないことがあればエキスパートに会い質問をし内容理解に務める。当時はパソコンなどもなかったためにファイルの束を持ってアメリカに飛び立つなどの話も興味深いものでした。

結構びっくりするのは取り調べ室でのゴリゴリな証言誘導があったようなことです。今ほど情報が世に広まらない中、密室に連れて行かれ、信頼していると思っていた部下や友人が嘘をついている。そしてかなりの圧力を受け、証言したほうが罪が軽くなるなんて言われたら合理的な判断なんてできないだろうなと感じます。

さらには国を跨いだ時の思惑なども絡んできて、周りのマスコミはお祭り状態。世間の人は真実でないことを真実だと思っていたりなど中々考えただけでも辛い状況が想像できます。

その中で弘中弁護士の紳士な姿勢やどんな論点で争ったのかなど詳しく書かれており弁護というものが何であるのか少し垣間見れたのはとても面白い本でした。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3JxaVgC あきらめない 働く女性に贈る愛と勇気のメッセージ 文庫 – 2014/12/2 村木 厚子 (著)
  2. https://amzn.to/3ZYLMT0 日本型組織の病を考える (角川新書) 新書 – 2018/8/10 村木 厚子 (著)
  3. https://amzn.to/3TlEqq4 私は負けない 「郵便不正事件」はこうして作られた 単行本 – 2013/10/24 村木 厚子 (著)
  4. https://amzn.to/42lGxy7 私は無実です 検察と闘った厚労省官僚村木厚子の445日 Kindle版 今西 憲之 (著), 週刊朝日取材班 (著)
  5. https://amzn.to/3yOgqT8 小沢一郎 闘いの50年 半世紀の日本政治を語る 単行本 – 2020/5/1 岩手日報社 (編集)
  6. https://amzn.to/3FwfBlx 悪党―小沢一郎に仕えて 単行本 – 2011/7/7 石川知裕 (著)
  7. https://amzn.to/3ZTLi09 小沢一郎 完全無罪 -「特高検察」が犯した7つの大罪 (講談社+α文庫) 単行本 – 2011/7/21 平野 貞夫 (著)
  8. https://amzn.to/3mU3KXT 検察vs.小沢一郎―「政治と金」の30年戦争 単行本 – 2009/6/1 産経新聞司法クラブ (著)
  9. https://amzn.to/3JKuenR 政治家抹殺 「再審請求」で見えた永田町の罠 単行本(ソフトカバー) – 2013/6/21 鈴木宗男/佐藤優 (著)
  10. https://amzn.to/3yJdO8S 汚名-検察に人生を奪われた男の告白 (講談社+α文庫) 単行本 – 2010/4/21 鈴木 宗男 (著)
  11. https://amzn.to/3JNeNv2 闇権力の執行人 (講談社+α文庫) 単行本 – 2007/9/20 鈴木 宗男 (著)
  12. https://amzn.to/3yJSIr9 ママ、千華を助けて―“薬”に愛児を奪われた母の告発 単行本 – 1992/9/1 井上 和枝 (著)
  13. https://amzn.to/3YQlhOd クスリの犯罪―隠されたクロロキン情報 (有斐閣選書) ハードカバー – 1988/3/1 後藤 孝典 (編集)
  14. https://amzn.to/42kdtag 検証 医療事故―医師と弁護士が追跡する (有斐閣選書 (148)) ハードカバー – 1990/1/1 本田 勝紀 (著), 弘中 惇一郎 (著)
  15. https://amzn.to/3FxyowZ 11年目の「ロス疑惑」事件―一審有罪判決への疑問 (GENJINブックレット) 単行本 – 1997/2/1 現代人文社編集部 (編集)
  16. https://amzn.to/3JNxq20 三浦和義事件 単行本 – 1997/11/1 島田 荘司 (著)