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生涯弁護人 事件ファイル2 | 弘中 惇一郎 (著) | 2023年書評#34

日産元社長のカルロス・ゴーン氏の逃亡劇は世間に衝撃を与えました。この事件は日産と検察が密にコミュニケーションを取り筋の悪いながらも事件性があると判断し著名人を逮捕するいわゆる「人質司法」と呼ばれるものでした。

その事件に対して弁護人を勤めた弘中弁護士の著書で当該事件に対しての内容も含めた弁護士活動が詳細にかかれておりとても面白いものでした。 

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📒 Summary + Notes | まとめノート

薬害エイズ事件

薬剤エイズ事件はHIV感染を引き起こす可能性がある医療行為を行ったとされる安倍氏に対する弁護活動になります。これは当時厚生大臣であった菅直人氏が郡司ファイルと呼ばれるメモをマスコミに発表し「隠蔽されていた重大な資料」としたものによるものです。結論としてはこのファイルは何も重大な内容は無いただのゴミファイルであると郡司氏自ら言うものでありました。

これにより安倍氏は世間の敵となり、ニュース番組に真実を話すためにインタビューに答えに行くと安倍氏が悪いような部分のみ報道をされてしまうなど人物像を作られます。

安倍氏が医療行為をした当時に、対象の医療行為の危険性は認められておらず安倍氏に故意性はなかったとし結果無罪判決となりました。本件では事件当時の医療水準や情報認識度が大きな論点となり、無罪となりました。

弱者と共に

本書で一番衝撃だったのは、タイ人女性の人身売買からの売春社会の話になります。下館タイ女性殺人事件として弁護にあたったこの事件の背景は、家族の生活を助けようと思い日本で良い仕事があると言われタイの斡旋会社を通じてビザを取得し日本へ3人のタイ人が来ました。

タイ側のブローカーは大金を受け取り、日本側のブローカーが日本へ来てから管理します。日本に来てからは売買されマンションを転々とし、スナックの従業員という定で仕事をします。そこではスナックの従業員ながらもマンションで生活させ、タイ人が管理。スナックの客と売春行為をさせそこでの利益は、あらゆる名目で借金をさせられて手元に渡らないというスキームでした。

結末としてはマンションで3人のタイ人を管理していたタイ人女性(さらに悲しいのはこの管理者も元々ブローカーにつれてこられた女性)を寝ている時に殺害。パスポートが入っていると見られるかばんを手に取り3人は逃げ出します。そこに売上が同封されていたことが事件に左右します。

3人は警察に見つかり逮捕されると、日本語もままならない日本語学校へ通うタイ人女性を通訳とされ警察で証言をし、言っていないことも調書とされてしまいます。

中々に悲しいのはタイ人の犯人とされた3人は資金もないため無償の弁護活動。スナックの管理者も売春行為は知らないとされ、警察も調書で問題がなかったと言い張ります。結果初期の刑罰よりも軽い刑罰となる温情判決を得られたのですが、根底にある売春行為やブローカーの問題からの行為実施に及ぶ文脈は判決にあまり考慮されきりませんでした。売春行為を斡旋していたであろうスナック経営者は資金を隠しており支払いもされずに終わります。

痴漢冤罪事件

それでもボクはやっていないの題材になっている事件の痴漢冤罪について弘中弁護士は担当しております。痴漢罪は一時期免罪行為が多くなり社会的な問題にもなりました。満員電車内での行為は、痴漢されたがわも記憶が曖昧であり、窓ガラスに反射する表情などが供述にあったり実際に触られているところでなく近くにあった手を掴むなど曖昧な証言ながらも一度警察に引き渡されると事件となってしまうところがあるそうです。

結果無罪判決となったそうですが、教授としての信頼は失い社会的地位は低下してしまったというのは難しいところに感じます。

カルロス・ゴーン事件

カルロス・ゴーンの逮捕、逃亡はとても衝撃的な事件にありました。本人の後日談として「日本で死ぬか、脱出するか」しかなかったと言いました。

事件報道当時から、何か筋が悪そうな内容だなと見ておりましたが、弘中弁護士の視点でもまさにそのとおりだったようで、1度目逮捕された際に「これから証拠を探す」というようなスタンスで逮捕、そのさいに事件性がなかったために違う容疑で2回目の逮捕を行ったようです。

その中で通訳も中々意思疎通が難しく、家族との面会もできない。狭い勾留所に人権が無いような状態で閉じ込められるという、世界的に見るとかなり人権侵害と取られかねない行いとなっていました。

また、弘中弁護士に担当が回ってきた背景には、日産側が専任した弁護士に対してゴーン氏が不信感を持っており弁護の依頼があったようです。これも読んでいると、日産側が事件性があるとして検察に事件を報告し、無い会議で日本へ呼び出しそこを逮捕。その裁判で日産が弁護士をゴーン氏へ打診するという中々に怪しい流れです。

ゴーン氏が保釈された際には謎の尾行が行われており、それもあえてゴーン氏が分かるように付け回していたと言います。レストランでは隣の席に座ってくる、車では後ろにぴったりとついてくる。写真週刊誌のカメラマンにこれを撮影してほしいと頼むとぴったりと止む。

弘中弁護士としては完全無罪の自信があったようですが、結果としてゴーン氏はその現状に絶えきれずリスクを犯して逃亡。読んでいてかなり気味が悪く、こういったことがあると余計外国人が経営者として日本企業の立て直しなんてしたくなくなるなと感じました。

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感想

二冊セットで1000ページぐらいに及ぶとても読み応えのある本でした。弁護士の仕事についてや何を論点として裁判するかなどや証拠を残すための対策なども書いてあり色々と勉強になるところが多かったです。

弘中弁護士の姿勢もとても紳士的であり、事実を捻じ曲げてではなくて真実は何であるのか、証言から見えることを証明するために好奇心を持って望む様子が面白かったです。

時々あるエピソードで現地に赴いて何かトラブルがあった時の楽しむ様子も弁護士という仕事を通じて好奇心を満たしていく様子が良かったです。

裁判や争い事は人が生きていく中でどうしても起こり得ることなので中々聞けない話なども書いてありおすすめの本でした。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/3TspiXR 安部英医師「薬害エイズ」事件の真実 単行本 – 2008/9/10 武藤 春光 (著), 弘中 惇一郎 (著)
  2. https://amzn.to/42iAE4P 安全という幻想: エイズ騒動から学ぶ 単行本 – 2015/7/7 郡司 篤晃 (著)
  3. https://amzn.to/3FwND94 買春社会日本へ、タイ人女性からの手紙 単行本 – 1995/5/1 下館事件タイ三女性を支える会 (編集)
  4. https://amzn.to/3n0SI3i 「深層」カルロス・ゴーンとの対話:起訴されれば99%超が有罪となる国で 単行本 – 2020/4/15 郷原 信郎 (著)
  5. https://amzn.to/3JrWdaj ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相 (幻冬舎文庫) Kindle朝日新聞取材班 (著) 形式: Kindle
  6. https://amzn.to/3FxAwot 無罪請負人 刑事弁護とは何か? (角川oneテーマ21) Kindle版 弘中 惇一郎 (著) 形式: Kindle
  7. https://amzn.to/3JP2GOj 人間滅亡的人生案内 (河出文庫) 文庫 – 2016/1/7 深沢 七郎 (著)
  8. https://amzn.to/40cB8rk サボる哲学: 労働の未来から逃散せよ (NHK出版新書 658) 新書 – 2021/7/12 栗原 康 (著)