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ぼくはあと何回、満月を見るだろう | 坂本 龍一(著) | 2024年書評9

2023年に残念ながら亡くなられた坂本龍一さん。

坂本龍一さんの訃報に海外の友人たちがインスタグラムのストーリーにあげているものを見て気が付きました。

 身の回りだけの話になりますが、日本でよりも海外で多く話題になっていたので、日本人でここまで世界で話題になる人ってどれほどいるのだろうかと驚いた記憶です。

 

亡くなられたニュースが頭に残っていたのか巡回していた本屋で置かれているのを見て手にとって読んだ本のうち1冊目が本書「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」になります。これらの本を読んで見た戦場のメリークリスマスラストエンペラーは以前触れました。

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この本の元になった文章は雑誌新潮での連載であり、もう一冊読んだ「音楽は自由にする」も同様に雑誌「婦人画報」での連載でインタビューをしたものからになります。

インタビューを務めた鈴木正文さんは2022年の6月7日から始まり亡くなる20日前の2023年3月8日まで面会をしていたそうです。

 

誰かの人生の記録がここまで彩り豊かに記録されているという事はとても興味深く、坂本龍一がどのような時代を生きてきて、何を感じていたのか。本という形に記録されていることにとても感謝します。

 

タイトルにある「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」は映画「シェルタリング・スカイ」に出てきた言葉であり、原作者のボールボウルズが

「人は自分の死を予知できず、人生を尽きぬ泉だと思う、だがすべて物事は数回、起こるか起こらないか、自分の人生を左右したと思えるほど、大切な子供の頃の思い出も、あと何回心に浮かべるか、4〜5回 思い出すのがせいぜいだ、あと何回 満月をながめるか、せいぜい20回、だが人は無限の機会があると思う」

 

というセリフが心にあり、自身のガン発覚から死について考える機会を増えた時に思い浮かんだものだそうです。2017年に発表したfullmoonという曲はそこから来ていると言います。ボウルズのセリフをサンプリングし様々な言語に翻訳したものです。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

ガンとともに生きる

ガンの手術を行ったあとはせん妄状態がしばしば起き、韓国に居ると勘違いして看護婦さんに韓国語で話そうとして日本語のうまい看護婦さんと話していると日本だと気づく。点滴を受けながらベッドに横たわっているのにアシスタントに会議について遅れそうと連絡するなどせん妄状態がありました。

友人についてもよく考える機会になったそうで、まっさきに電話できる人が世界中に居る事にありがたく感じたと言います。

レヴェナントで音楽を共に作ったドイツ人のカールステン・ニコライや池田亮司さん。

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時間の永続性についても疑うようになり、ガンをきっかけに永続性や一方向性を前提とした考えを見直すようになります。アリストテレスアウグスティヌス、カント、ハイデガーベルクソンなどが時間について語ったことを多く読んだそうです。

病院に居ると憂鬱になることも多く、仕事の打ち合わせをしている時だけ身体のことを考えずに済んだことは嬉しいことのようでした。入院中は雨の音が好きだったようで、ニューヨークでも雨の音に耳を傾けていたようです。Youtubeでも雨の音を流していたら心が落ち着く。

そんな中息子さんがFacebookにポストしたYesterday When I was youngを聞き涙が流れたと言います。

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旅とクリエイション

本書で多く紹介されるのが様々な考えや民族、土地についてあります。

アイスランドに強い関心があり、小国でありながら持続可能である。しかしアイスランドも過去にアメリカ資本が大規模なアルミニウム工場を建設し廃棄物で環境汚染され、バブルも崩壊します。銀行の幹部は経済崩壊の責任と取る必要があるとして裁判にかけられ投獄。ビョークは音楽活動をする傍ら市会議員になっている。アイスランドにインスピレーションを受け完成させたものが「Disappearance」です

www.youtube.com日本の地方だと奈良県談山神社の話もあります。翁の上演を見に訪れ大化の改新ゆかりの地として有名な地でした。翁の物語は非常に抽象的で謎めいているのですが、それゆえに興味深さを持つ。奈良の紀伊半島のみならず多く存在していたであろう民族に思いを馳せていました。

札幌国際映画祭は2014年にディレクターとして任命された大きなイベントでした。アイヌ民族が暮らしていた土地を開拓してできた街です。「都市と自然」がテーマとされ過去を見直して未来を考えるというものでした。ちょっとしたおもしろエピソードにハトにフエをつけて空で巡回させようと試みましたが一羽たりとも旋回せずに遠くに飛び立ってしまいました。

健康にも関心が高く、マクロビやヴィーガンも一時期行っていたようで、完全菜食主義は長く続かず、動物性蛋白質を取らないと性格も変わり闘争心も減ったようで辞めたようです。アメリカのニューヨークで生活している坂本龍一さんはガンについてもアメリカで発見されます。ニューヨークで治療を決め西洋医療だけでなくガンに効くとされる人参ジュースであったり、キノコエキスだったりも試したそうですが、1万人に一人ぐらいの効果だったのだろうと思い西洋医療の方がはるかに多くデータがあるためにその方法を取りました。

ニューヨークのがんセンターでは患者向けにハーブや漢方の処方などされており日本よりも西洋医療と代替医療が身近にあるものでした。病院の中はキンキンに冷えており、隣では半袖でコーラをがぶ飲みしている人など日本の病院とは異なるものでした。一方でデータ化は日本よりもはるかに進んでおり、血中蛋白質などのデータがすぐ閲覧されており、またハーブなどの研究結果をまとめている情報へリーチできるアプリがあったようです。

そのニューヨークの生活は90年代からでした。世界中を転々とするために日本よりニューヨークの方が便利という事で拠点としました。「美しい四季は日本でしか味わえない」などと言われたようですが、ニューヨークの自宅の庭で秋が深まると木々が色づき、冬には雪が積もる景色を見てしみじみいいなあと感じています。冬の雪が積もる庭でフィールドレコーディングをして楽曲作成にもつなげています。

新たな才能との出会い

ドナルド・トランプが大統領となりみながショックを受けていたアメリカ生活。こんな時代だからこそ音楽やアートが大切だと感じていました。ブレックファストクラブと呼ばれる会を友人たちと月1回開催していました。

韓国のアートスペースやオーストラリアのグラスハウスでのパフォーマンスなど実施する中で多くのアーティストたちを交流を重ねます。

ニューヨークのレストランkajitsuでは頻繁に利用してたもののBGMが気になり申し出てプレイリストを作成。

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様々な若い才能とも出会いました。フライング・ロータスはニューヨークで会うやいなやセンセイと呼び日本のカルチャーにも詳しく驚きます。サンダーキットも同様に日本に行くと中野ブロードウェイに行くというほどでした。

韓国のバンドSe So Neonとも交流がありました。また北京のM WOODSという場所で展覧会を行いワンワンというオーナーとも出会います。

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感想

音楽は自由にするは坂本龍一の子供時代から振り返る内容でしたが、こちらのぼくはあと何回、満月を見るだろうは特に最近の話をまとめたものになります。日頃から社会に問題意識をもち、尖っていた若い時代からから一貫して反骨精神が垣間見れる考え方を持っていた方に思います。

ガンの治療に関しても言われるがままというよりは自分で考えて選択していく、作品作りに関してもその時々の社会問題や考えを反映して実験的な作品作りをしていく。アーティストというのは自己表現できるというのはとても羨ましく思います。

表紙はニューヨークの自宅の庭に置いてある朽ちていくピアノです。

音楽は自由にするに詳しく書かれていたように民族音楽から学ぼうという姿勢が、世界中の音楽家やアーティストとの交流を生み出し、興味を持たれている所以でもあるのでしょうか。

文中に登場する数々の映画や本など何を見てどう感じたのか、事細かく書いてあります。どこかまだ大人になれない大学生のような雰囲気も感じ、社会に抗いながら自分にしかできないことをする事への枯渇が感じられます。

何か世の中に残す事ができるという素晴らしさを感じる本でした。

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