日銀総裁が交代するということで日銀関連の本を読んでいるのですが、ゼロ金利との闘いと同じくとても面白い内容でした。
イマイチ噛み砕けるまでの理解が無い分野なので、少し不明確な部分や不確かな部分もあるかもしれませんが、本書に対する興味のきっかけになればと思いますので、多目にみつつ読んでいただけると嬉しく思います。
📒 Summary + Notes | まとめノート
黒田さんが日銀総裁の任期を終えられて植田総裁へと変わりました。本書は黒田さんが日銀総裁になられ異次元緩和をする際にどういったことが考えられるかという2013年にまとめられた本になります。
アベノミクス3本の矢
アベノミクスで三本の矢が掲げられます。
- 大胆な金融政策
- 機動的な財政出動
- 成長戦略の実現
引用:
3本の矢であげられた2、3に関しては決断から実行、そして効果に関しては時間がかかる政策である一方で、大胆な金融政策は日銀が決めさえすれば即実行できる比較的時間効果が短いものであしました。
教科書的に金融政策が即時の効果があるということはなく、住宅を購入する際のように金利が下がったのを見て家を建てようかと考える時間のように少し時間がかかるものとされています。一方で、外貨取引(ドル円)や株価に対しては経済指標に反応して上下するように即効性が高い影響力もあります。
時間効果が短い政策には政府と日銀との密で連携したやりとりが必要になりますが、これに対する懸念点は日銀の独立性です。日銀政策と政治の介入に対するディスカッションは先進国でも様々であり、結論のでないものではありますが、最近ではインフレ目標の設定などに見られるように干渉しないというよりも連携した動きをすることで雇用安定・物価安定を実現していたりします。
本書で一つポイントとされているのは3本の矢の中で金融政策は時間を買う政策(短期的に効果を見れるもの)であり、それに続いて最終的な成長の実現を狙っているという言及でした。
金融政策の方法としてはゼロ金利、金融市場への資金供給(量的緩和)など2023年時点では当たり前に行われている事が挙げられており、当時から考えられるものは実行されてきていると感じます。
金融政策に対する副作用
本書では3本の矢に関わる1つ目の矢である金融政策について考えられるアクションと難しさ(他国との違い)、その反動についてまとめられています。
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円高デフレ
ゼロ金利を考える上で、まず日本の輸入状況から考えます。日本は原料や燃料資源などは輸入に頼らざるを得ない状況です。これらは大きな備蓄はできず継続的な購入が必要なものであるために円高であるという事でメリットが得にくい構造です。また円高になることで国内消費(購買力平価)が鈍る傾向もあるために円高とデフレを組み合わせた円高デフレは景気の悪循環として出てくる表現です。
アベノミクスでは円安方向へすすめるために「外債買入れ」という方策が考えられました。これらはFRBの政策などを参考に最も効果的なものであるという認識が広まっていたからになります。FRBの政策で景気を刺激するためにドル安方面へすすめることは短期的には効果があるものの長期的には自国通貨の価値を下げていることにもなるために副作用も生まれていました。
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国債買入れ
長期金利を下げる政策(ゼロ金利)は今となっては普通になっています。長期金利に働きかける非伝統的金融政策には①長期国債の買入れ②将来の政策金利についての約束があります。
一つ興味深い点にあったのは長期国債の買い入れが金利低下に対しての効果は限界がある点です。中央銀行が国債買い入れを一時的にでも辞めると国債の利回りが上がり始めるために、国債の利払い費用が高くなります。先進国では、金融機関による国債の保有と財政事業の悪化が同時並行的に進行しているために、国債買い入れを止めることが一段と難しいといえます。
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デフレ・インフレ
日本は長年デフレである珍しい国であり、黒田さんは2年でインフレ目標2%まで達成するために、マネタリーベースを2倍にするという実弾投入をしました。今となっては稀有でありましたが当時こんなに大きな変化を短期間で起こして大丈夫かと言われており、その理由はインフレが2%よりも高くなった際の副作用にありました。
2023年にはどうなったのか
本書の執筆から10年経過して結局のところ第3の矢である成長戦略の実現まで結びつかなかったという印象の方が多いのではないでしょうか。
以前読んだゼロ金利との闘いでも感じたのですが、日銀はできることを割とやりきっているような状態にあると思います。それも黒田さんが日銀ができることを全てやろうという事でゼロ金利、ETFの買い入れなど経済を刺激するような金融政策を手助けしていました。
中々不思議なのは経済へ反応しない側面であるかと思います。これらの金融政策に下支えされている株価も一時期は高値をつけることもありましたが今ではまた高値をつける方向には無く、経済成長をしていると言えない状況です。
これだけの異次元緩和をしておきながら反応しなかったという一方で、異次元緩和を止めたら問題が起こることも考えられます。
これだけ大きな未踏のテーマに多く晒されながら活動しなければならない日銀の大変さを感じますし、経済学者からすると日本経済の不思議というテーマはいつまでも論じる事ができるテーマであるのだろうなと感じます。