SVBが破綻したりCS(クレディ・スイス)の疑惑が上がってきたりと最近金融市場での話題が多くあります。FRBのパウエルさんは市場とのコミュニケーションをかなり密に行い金融緩和からの利上げまでとインフレや雇用状態を見ながら経済対策を行ってきました。
日本は誰にも解けないデフレ問題を解決しようと金融緩和を引き続け、コロナ禍では金利差から円安傾向が進み、目標インフレ2%を安定的に達する前に弊害がつきまとい、ETFや国債の出口戦略も考えたほうが良いのかどうなのか、という印象です。
そんな中黒田総裁の後任として植田新総裁が日銀を取りまとめる形となるということで、植田さんの著書を読んでみました。
📒 Summary + Notes | まとめノート
金融のセオリー
日銀などの中央銀行は目標インフレ達成のためにマネタリーベースを増やして、世の中への貨幣を増やし経済を回すように後押しします。ゼロ金利となると会社はお金を借りやすくなるために貨幣流通をサポートする役割があります。ゼロ金利においてなぜ日本でGDPが伸びなかったという一つの解は銀行貸出増加率が上がらなかった、つまり経済に出回った貨幣が動かずに滞留しており、その度合いも高くなり続けたということでした。
画像引用:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=70907?site=nli
その理由として挙げられていることは、資産価格バブルが弾けており資産価格が低下し借り手・貸し手の財務状態を悪化させたためだと言います。その根拠としては銀行の有価証券含み益は低下傾向にあり、不動産の含み益も大幅に低下しました。結果、自己資本比率は上がり続ます。
引用元:https://www5.cao.go.jp/keizai3/keizaiwp/wp-je97/wp-je97bun-1-6-13z.html
バブルのツケを長い期間を欠けて払ってきたというような形になりました。
ゼロ金利下でさらに何ができるかについて本書で挙げられているのは3点
おそらく1にあたり本書で「時間軸政策」と呼ばれているゼロ金利との一段の政策としてはYCCという形で現在までも続いております。
学界における金融政策議論
クルーグマンの量的緩和論では「いくらマネタリーベースを増やしても、…金利がゼロの資産をやはり金利がゼロの別の資産(国債)とスワップしてやるだけなので、何の実体的効果もない」と言われています。端的に、単純な量的緩和は効かないという意味だそうです。
将来のマネタリーベースの増大するというコミットメントによって、将来の物価水準が上昇するという期待が生まれ、現在から将来へかけてはインフレ期待が生まれるというみたいです。
これに対して著者は、貨幣の流動性が停滞している状態では効果が薄いと言います。
もうひとつ紹介されているのは、修正テーラールールと呼ばれるもので、ゼロ金利を必要が無くなったタイミングでも引き続き続け(時間軸政策)るものもあるそうです。
日銀政策への提言としては①不明瞭さを残した時間軸政策②外部とのコミュニケーションギャップが挙げられています。
その他にも色々と挙げられており、政策で資産を購入などありますが、本書が書かれた後から現在にかけてもETFの大量購入などが実際に行われておりました。
感想
ゼロ金利の意味合いから、ゼロ金利の効果について日銀の政策を振り返るような内容の本でした。アカデミック分野での論考からどういったものがゼロ金利のさらに1段踏み込んだ政策としてあるのか記載もされておりました。
本書を読んでみると、日銀は割とやることやっているという印象で、これで結果が出ないとなると感情的にはちょっとかわいそうな印象さえも感じます。
以前読んだ「物価とは何か」においても日本のデフレ問題について書かれており、明確な答えがない日本の不思議な現象であるようなことが書かれておりました。
物価とは何か | 渡辺 努 (著) | 2022年書評#43 - ライフイズビューティフル
アメリカや他の国では成功している政策も、日本というケースでは当てはまらなかったという事実は今一度理解しておくべきことではないでしょうか。もしかするとその理由はバブルの負の遺産かもしれないですし、日銀のコミュニケーション不足で集合認識形成が欠けていたという話かもしれないですがこれは誰にも分からないことです。
一方、ゼロ金利状態はいつか解消しなければならないために金利が上がるタイミングがどこかで発生し、そうするとSVBにあったように国債を大量に持つ日銀のポートフォリオが赤字になるということもあります。
“日銀 大量国債買い入れで債券市場機能低下” 懸念の声相次ぐ | NHK
また、ETFの大量保有から株式市場への大きな影響度もあります。特に日経225の日銀保有比率は高く、日経225に含まれる企業の株価への影響度がとても高くなります。
今後植田さんがどのような政策を行っていくのかとても楽しみにしています。