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私たちは子どもに何ができるのか ― 非認知能力を育み、格差に挑む | ポール・タフ (著), 高山真由美 (翻訳), 駒崎弘樹 (その他) | 2023年書評89

教育関係の本で有名な著者と言えばのポールタフさんの著書になります。成功する子、失敗する子でも様々と纏められており、彼の著書でキーとなる考えは貧困による教育格差と非認知能力の2点です。 近年の教育分野で注目されているのはGRITなどと言われるような非認知能力(粘り強さ、自制心、楽観主義など)です。

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本書ではタイトルのサブにあるように格差のある教育環境(特にアメリカ)において貧困な層に対してどうやって非認知能力を育む事ができるのかという事を親や家庭環境、モチベーションや評価などに各章で着目しながら纏められております。日本だと割と関心が薄い政策面からの教育アプローチも多く語られているのも面白い内容でした。

 

📒 Summary + Notes | まとめノート

貧困と教育

アメリカでは落ちこぼれゼロ法(NCLB法)など教育政策に力をいれている一方で格差がどんどん拡がり続けています。大学進学率の差でも富裕層と貧困層の格差は拡がり、大学に行かなかった人たちが低所得区分20%から抜け出せないというサイクルが生まれてしまっています。

ポールタフの前著では成功する子のキーとなることに非認知スキルがあるという事を様々な角度から見られました。自制心や誠実さを含む非認知能力がある子供たちは大人になってからでも改善されていく傾向がありましたが、非認知能力が低いと健康状態が悪くなりやすく、シングルペアレントや借金などの可能性も高くなるという研究結果もあるそうです。

非認知能力を伸ばすために

非認知能力が重要なのは分かった一方で、ではどうすれば良いのか?はまだ答えが出ていないものです。ただし少しずつ分かってきた事もあります。

非認知能力は環境による側面があります。まずはストレスです。幼い時期ほどストレスに対するネットワークの発達に強い影響を及ぼします。感情面で見ると慢性的ストレスを受けた子供は失望や怒りへの反応を抑えることが困難になり、小さな挫折に敗北する。認知面で見ると、実行機能が育ちにくく複雑な指示に集中できず学校生活に不満を持ち続ける事があります。

子供のストレスに大きな影響を与えるのは親や家庭環境でのトラウマです。慢性的なストレスを家庭で受ける子供たちはACEスコアが高く、実行機能の発達に影響が出ていると判断されました。

子供たちが日々接する大人の行動や態度というものが子供の環境要因として大きな影響を与えるものになります。

良い方向へ導くものにアタッチメント(愛情)があります。1歳の時点でアタッチメントが安定している子供は幼稚園での生活も良好である一方で、アタッチメントが不安定な子供は幼稚園での生活に支障がある場合が多くありました。本を読んだり、会話したりと子供とやりとりをする事がアタッチメントを充実させます。

家庭環境改善に取り組むエデュケアプログラムがあり、不利な背景を持つ子供たちが格差を解消するためには、人とつきあう能力、みずからやる気を高める能力、心の強さなどの基礎を安定させるための取り組みがあります。

ターンアラウンドフォーチルドレンなどはアタッチメント、自己認識能力、人間関係を気づく能力などが土台となり、そこにレジリエンス、好奇心、学業への粘りなどが生み出されると言いました。

悪影響を与えたものと内発的動機づけ

ゼロトレランスと呼ばれる過度な規律はストレスを与え子供たちに良い結果を与えないとの研究結果があったり、またインセンティブプログラムで子供や先生に報酬を与える方法についても効果が見られず、マンモス校に至ってはマイナスの効果が出たとさえ結論付けられています。

これらに関しては内発的動機づけでない動機によるものではないかと言うことで、ロチェスター大学の心理学者デシとライアンは内発的動機づけを名付けました。内面的な楽しみや意義を動機とすることが該当し、有能感、自律性、関係性の3つが満たされる時に起こるものとしています。

勉強や絵を書くことでも報酬を与え続けていると次第に仕事のようになり、報酬の効果がなくなります。物事に対してすべて内発的動機づけだけで行動できるものではないために、外発的動機づけをどうコントロールできるのかが重要になります。

キラボジャクソンは先生の中で認知スキルが高い先生が居る事、そして非認知能力を高める事がうまい先生が居る事を見つけます。問題は行政のシステムとして前者には報酬が支払われ、後者は報酬を得られていない事でした。良い大学に沢山送り込める先生を良いとしたら、どの先生もそこにフォーカスしてしまいますよね。

一人の先生、ファンリントンは学業のための粘り強さのために、学業のためのマインドセットとしてカギを抽出しました。4つの信念をどう信じて貰えるかという事が粘り強さを生み出す鍵と言いました。

  1. 私はこの学校に所属している
  2. 私の能力は努力によって伸びる
  3. 私はこれを成功させることができる
  4. この勉強は私にとって価値がある

この信念を伝えるために道具箱としては人間関係と学習指導。生徒との接し方などと、何をどう教えて習得度を評価するかです。

本書で面白かったのは日本の数学教育の現場にて、新しく出会う問題を最初に解かせて後で解説するというスタイル。小さなグループで話し合ったり、大きなグループで話し合い、新しい要素を解説しながら生徒が回答にたどり着く授業です。

一方でアメリカは混乱や不満は最小限に抑えるべきという考え方があり、自分たちで新しい問題に取り組むことよりも反復練習する時間が多く使われているそうです。

ディーパーラーニングと呼ばれる、探索型の指導、プロジェクト型の学習、実績重視の評価などの方法もあります。

それで、どうすれば良いのか?

WEHEELSやポラリス、エデュケアが良い運営をしているのはわかりましたが、実態としてアメリカの被教育者のかなり小さな割合にしか影響を与えられていない事も事実です。

その中で、ポールタフが最後にする提案は3つ。

  1. 政策を変える必要がある。
  2. 私達は行動を変える必要がある。
  3. 私達は考え方を変える必要がある。

感想

子育て世代になると教育に関して関心を持つ人達は多いと思います。アメリカのように先進国のトップにいても特に幼い世代の教育は遅れているとされていたり格差が多いと問題があったりする一方で、大学以降に優秀な人材が集まる強烈なしくみができている所もあれば、日本のように一定層教育水準が高く大学以降に失速するような国もあるのは面白いですよね。

高校を卒業する頃に教育に疑問を持っていたのですが教育実習を通じて先生の限界も感じ教育業界とは関わらない立場に身をおいていますがいつか教育業界にも貢献できたらなと思います。

学校システムは長らく変化が無く板書スタイルの授業が維持されているように思いますが、もっと変化を受け入れて柔軟になっても良いと思いますが実験をしにくい環境である事も理解できます。

また、たまたま野球に興味を持ち極限に高い規律の中で生活した事もGRITをつけられたという副次的な身につき方もあります。自分の子供レベルには教育の工夫はできると思いますが、それ以上の範囲となると政策を信じて選挙に関心を持つなども一つの手ではあると思いますがそれも日本のようなゆるやかな一党体制の中でどう実現できるのでしょうか。

📚 Relating Books | 関連本・Web

  1. https://amzn.to/48sBbEr 日本の算数・数学教育に学べ―米国が注目するjugyou kenkyuu 単行本 – 2002/11/1 ジェームズ・W. スティグラー (著), ジェームズ ヒーバート (著), James W. Stigler (原名), James Hiebert (原名), 湊 三郎 (翻訳)
  2. https://amzn.to/3ZBWmjs モチベーション3.0 持続する「やる気!」をいかに引き出すか (講談社+α文庫) 文庫 – 2015/11/20 ダニエル・ピンク (著), 大前 研一 (翻訳)