リー・クアンユーの本において気の毒な歴史として語られたベトナムの建築について纏められていた建築のハノイを読みました。
これもベトナム旅行を期に興味を持ち読む事になったのですが、ベトナムはフランス植民地であったこともありフランスの建築家が多くの建築を立てました。植民地で比較的自由も効いたようで、象徴的な建物を建てようという機運やまちづくりも力を入れていたために東南アジアにパリを再現しようというような背景もあったようです。
今回初めてベトナムに行ってホイアン、ダナン、ホーチミンと旅行したのですが、建物もとても魅力的で、古い建物やホテルも多く街なかを歩いているだけでも楽しい時間でした。
かつて「ふらんすへ行きたしと思へどふらんすはあまりに通し」と過去の日本人はフランスの遠さに哀しみを感じて居たようですが、フランスの町並みや食文化など含めヨーロッパの雰囲気を味わえる身近な国としてベトナムはぴったりではないでしょうか。
📒 Summary + Notes | まとめノート
下に纏めたのですが、多くの建築は1900年ごろから立て始められ30年内、40年代に多くが建てられました。モダニズム建築はフランスを含む西洋では1920年代ごろから建てられはじめ、インドシナに到着し1930年代に建てられたインドシナ銀行やインドシナ不動産銀行はジョルジュ・トローヴェにより先導されます。
またその後になるとベトナム現地の雰囲気を含むインドシナ洋式という本国の雰囲気を持ち込むだけならず、コラボレーションしたようなものになっていきます。
ヨーロッパの洋式を取り入れた建築はフランス統治後でしたが、それ以前はベトナムの王朝がありました。最期の王朝はベトナムの中央部のフエにあります。フエには王宮建築が残されており、北京まで出向きまちづくりを真似して建てられたそうで、日本でいう奈良や京都のような街作りになっています。
面白いのはフランスの影響を受けており、中国の王朝をそのまま真似するだけではなくフランス洋式との融合がされているようで美的感覚の豊かさに驚きます。
ダラットと呼ばれる避暑地として知られる土地はフランス人が熱すぎるベトナムの市街から逃れて休暇をす過ごす場所でした。ここではヴィラ(別荘)の建築が盛んで、お金持ちがこだわり抜いた建築物が多くあります。
ホーチミンは経済の都市として大きな川がある街で交易も盛んでした。資本家も多くいたために豪華な建築物も多くあり、川沿いのマジェステックホテルなどは中国人の資本家フイ・ボン・ホアが運営を行っており、その他にも市場や病院の建築も手掛けたそうです。
中国出身の人たちも多く、各出身地にまつわるお寺などを建てては交流の場になっていました。
本書で紹介される建築リスト
1 | オペラ座 | アルレイ | 1901年着工 1911年完成 | ハノイ |
2 | ハノイ大聖堂礼拝堂 | ランデ神父 デュポミエール | ハノイ | |
3 | ハノイ大聖堂 | ピガニエール司教 | 1884年竣工 1888年完了 | ハノイ |
4 | 給水塔 | 1880年代 | ハノイ | |
5 | ポールベール公園(現リータイトー公園)の八角堂 | ポールベール | ハノイ | |
6 | ホアロー刑務所 | オーギュスト・アンリ・ヴィルデュ | 1899年 | ハノイ |
7 | 裁判所 | オーギュスト・アンリ・ヴィルデュ | 1906年 | ハノイ |
8 | インドシナ雲南鉄道本社 | ホアン・ギア・サン(修築) | 1910年代 | ハノイ |
9 | ホテル・メトロポール | 1901年 | ハノイ | |
10 | ドゥメール橋(現ロンビエン橋) | デイデ&ピレ ポール・ドゥメール | 1902年 | ハノイ |
11 | 総督官邸 | シャルル・リシタンフルデール | 1907年 | ハノイ |
12 | トンキン理事長官官邸 | アドルフ・ビシュー | 1919年 | ハノイ |
13 | 聖マリア修道院 | サン・ポール・ドゥ・シャルトル修道女会 | 1916年 | ハノイ |
14 | リセ・アルベール・サロー | ヴィルニュイユ&クラヴェロー | 1919年 | ハノイ |
15 | ヴィラ(ホータイ八角館など) | 19世紀末 | ハノイ | |
16 | フランス極東学院博物館(現歴史博物館) | エルネスト・エブラール シャルル・バトゥール | 1932年 | ハノイ |
17 | インドシナ大学(現ベトナム国家大学) | エルネスト・エブラール | 1927年 | ハノイ |
18 | 連邦政府財務省庁舎 | エルネスト・エブラール | 1927年 | ハノイ |
19 | 北門教会 | エルネスト・エブラール | 1931 | ハノイ |
20 | パスツール研究所 | ガストン・ロジェ | 1930 | ハノイ |
21 | インドシナ大学学生寄宿舎 | 1940年代 | ハノイ | |
22 | インドシナ銀行 | ジョルジュ・トローヴェ | 1930 | ハノイ |
23 | バニエール・ガラージュ | ジョルジュ・トローヴェ | 1927 | ハノイ |
24 | ハノイ商業農業会議所 | アンリ・セルッティ・マリオ | 1942 | ハノイ |
25 | アールデコの病院 | 1930年代 | ハノイ | |
26 | モダニズムのヴィラ(個人邸) | フイン・タン・ファット | 1930年代 | ハノイ |
27 | 軍事博物館の国旗塔 | フランス軍工兵隊 | 1812 | ハノイ |
28 | 一柱寺(延祐寺) | 1049 | ハノイ | |
29 | 玉山祠 | グエン・ヴァン・シエウ | 1843 | ハノイ |
30 | ディンバン村の祭祠ディン | ハノイ | ||
31 | 亀の塔 | 1736 | ハノイ | |
32 | フエ王宮太和殿 | 阮朝工部 | 1805 | フエ |
33 | カイディン帝陵 | ファム・テー・ナン阮朝工部 | 1931 | フエ |
34 | ダラット教会 | 1938 | ダラット | |
35 | ダラット駅 | ポール・モンセ、ルヴェロン | 1938 | ダラット |
36 | ダラットのパレス1 | 1929 | ダラット | |
37 | ダラットパレスホテル | 1922 | ダラット | |
38 | バオダイ帝ヴィラ | ポール・ヴェシール、グエン・ヴァン・ニン | 1938 | ダラット |
39 | ホーチミン市庁舎 | フェルナン・ガデ | 1907 | ホーチミン |
40 | レホンフォン高校 | エルネスト・エブラール | 1933 | ホーチミン |
41 | ホーチミン市中央郵便局 | アルフレッド・フォーロー | 1891 | ホーチミン |
42 | サイゴン大聖堂 | ジュール・ブラール | 1880 | ホーチミン |
43 | サイゴンの給水塔 | ホーチミン | ||
44 | 第2児童病院 | フランス海軍工兵隊 | 1875 | ホーチミン |
45 | ホーチミン市歴史博物館 | オーギュスト・ドゥラヴァル | 1929 | ホーチミン |
46 | ホーチミン市市立劇場 | F・オリヴィエ、E・ギシャール、E・フェレ | 1900 | ホーチミン |
47 | ビンタイ市場 | コートネー | 1930 | ハノイ |
48 | チュア・ヴィンチャン | 1849 | ||
49 | ファットジェム大聖堂 | チャン・ルック | 1899 | |
50 | ファットジェムの村の屋根付きの橋 | 1902 | ||
51 | ヤシ教の島 |
感想
ベトナムは以前読んだ本であった技能実習生などのイメージが強くどちらかというと良いイメージが無かったのですが、行ってみたら美しさや懐かしさが目を引くとても魅力的な国でした。
上海やシンガポールのようにアジア各地に西洋建築が残るのですが、ベトナムはフランス植民地ということもあり美的感覚も高いのかなと感じるものもあります。
建築家にとっては自由に気持ちの乗った仕事ができる土地として植民地はきっと力を入れたいものであったようで、有名建築家が数多く来てランドマークとなる建物を建てていきました。当時の様子は分からないですし帝国主義の根本思想には感銘を受けないですがこのように西洋文化がアジアに流入して本国に負けず劣らずの美しい建物を残したのはプラスの側面に思います。
思えば日本の都も中国の朝廷を模倣しており、どの時代にも海外の憧れや先端と見られる文化を取り入れていくというのはあるものだと感じます。模倣とその土地の文化が織り交ぜて新しい洋式や文化が誕生していくという特徴が生まれていくのも旅行する楽しみだと思いました。
本書の最期に宗教の変化も書いてあり、ベトナムはもともと中国支配だったこともありお寺もあればキリスト教も多くノートルダム大聖堂のような建築物もホーチミンにあり文化の合流地点である珍しい土地です。
また行きたいと思いベトナム語の本を買ったので勉強してみようと思いました。
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