てっきりパタゴニアの企業文化についてさらっとまとめられたビジョナリーな視点をつらつらと書いた本かと思いきや、環境に対する取り組みや視点がかなりよくまとめられていたとても良い本であった。ものづくりに関わる人・消費活動を頻繁に行う人にとってはとても興味深いものなのではないでしょうか。
- Don't buy this jacket
- 社員をサーフィンに行かせよう
- パタゴニアの生まれ方
- 理想の素材を求めて
- 環境意識の芽生え
- パタゴニアの理念
- 環境への理念
- まとめ:『死んだ地球からはビジネスは生まれない』
Don't buy this jacket
ブラックフライデーにニューヨーク・タイムズに掲載されたパタゴニアの広告。
「このジャケットを買わないで」とされるコピーは購入者に対して、購買はよく考えてからということを啓蒙する目的で書かれました。
これはいかなるものづくりも環境に対する影響(主に悪い方向)が起こりうるということを理解した上で、アメリカのような大量消費社会の購買者に対して購入前にファッション的な消費を行う購買を抑制しようとした試みになります。
社員をサーフィンに行かせよう
少し理想主義的なコピーなのだが、その狙いは「責任感」「効率性」「融通をきかせること」「協調性」を育むための狙いがあるとのこと。とりあえず職場で過ごす時間をカウントすることを「仕事」と捉えるのではなく、「会社にとって必要なことを行う」ことを「仕事」と捉える環境です。また、パタゴニアは主にアウトドア製品を扱う事から、社員一人ひとりが真剣なアスリートであって欲しい・その体験からニーズを理解する、という視点や、アスリートであるならば天候が良いタイミングで外に繰り出すために「融通をきかせる」必要が出てきます。
MBA (Management by absence)とイヴォンが言うように自然を楽しみ、部下たちが下す判断に信頼する。そうした自主性の創造を大切にしています。
パタゴニアの生まれ方
パタゴニアの前進となる会社は1965年にシュイナードイクイップメント社が誕生。元々は鍛冶屋さんでクライミング道具を作成していた。「シンプリシティ(単純性)」を追求した製品は、耐久性、軽量性、デザイン性に優れひと目見ればシュイナードの製品だと分かるほど美しかった。
知り合い、知り合いの家族、知り合いの親戚と信頼のあるメンバーが社員として加わる中で、ものづくりに対する哲学は変わることがありませんでした。
衣類のアイテムが増える中でパタゴニアが誕生します。「どこにあるのかよくわからないけれども、遥か彼方の興味をそそられる場所」であるパタゴニアという地名を元にブランドネームがつけられます。
パタゴニアでCEOを13年間努めたクリス・マクディヴィットや、ノースフェイスの創業者ダグ・トンプキンス、エスプリ社のプレイン・ジェーンなどと共に自然を楽しみ会社は成長を続けます。
理想の素材を求めて
イヴォンは自身を「80%人間」と良い、80%の習熟度に達したらそこから先の熟練度には興味がなく新しい物事を行うと言います。クライミング、カヤック、雪山登山など数々の自然を楽しむ中で、登山時に保温性はあるが水分を吸収しにくい素材の必要性を見つけます。
登山業界では従来からある、綿、羊毛、羽毛などの素材が好まれていましたがそれらの重ね合わせのみでは限界があるということで漁師の定番であった化学繊維のパイル記事こそ登山に最適なのではないかと考えます。今まで地味な色が多かった登山用具に新しいカラーラインナップを持ち込んだのもパタゴニアでした。
環境意識の芽生え
ビジネスを拡大するにあたり、最高品質のものづくりが大きな規模になってからも引き続きできるのかと考えるようになります。
この時、様々な土地で自然を見る中で頻繁に出てくる問題が自然界の荒廃でした。ネパール、アフリカー、ポリネシアなどの環境が訪問のたびに姿を変え、ロシアではやみくもに開発され木々や土地が荒廃。南カリフォルニアの海岸線も様子が変化していることに気が付きます。
社員たちをパタゴニアを訪問し、拡大することでコントロールを失いかけていたものを見直し、企業理念を作り上げます。
この理念を表明した直後の1992年、パタゴニアは「インクマガジン」による酷評を受けます。
Yvon Chouinard touts his company as a model for the future, when, in fact, its time may already have passed.
"イヴォン・シュイナードは自分の会社を未来の会社規範として息巻くが、その運命はすでに尽きている"
1992年に書かれたこの記事が正解であったかどうかは今のパタゴニアの存在が答えを示してくれているでしょう。
パタゴニアの理念
理念ができたパタゴニアでは製品デザインの思想も設計されていきます。「最高の品質」というものに対し、どうであったら最高なのかと考える中で、「最高」という嗜好や個人の好みに依存する基準から脱却すべくチェックリストを作成します。
機能的であるか:保温性、通気性がよく乾きやすいかなど
多機能であるか:1つの道具で2つの役をこなせるか
耐久性はあるか:長期の過酷な使用に耐えられるか
顧客の体にフィットするか:コアな客である引き締まったスタイルを元にサイズ調整
可能な限りシンプルか:「いいデザインとは最小限のデザインである」
製品ラインナップはシンプルか:多すぎるメニューから注文をするのは困難
革新であるか、発明であるか:膨大な時間がかかる発明を求めるのでなく、既存の製品の足りない点を補うなどの革新を求めること
グローバルなデザインか:地球上の至る所で販売され得るものか
手入れや洗濯は簡単か:輸送と洗濯の2大環境悪である洗濯手入れが簡単であること
付加価値はあるか:修理可能である品質保証
本物であるか:ファッション的な「本物」(オーセンティック)でなく質が本物であるか
芸術であるか:遊びの精神が含まれているか
単に流行を追っているだけではないか:流行を追うレースは行わない
中心顧客のためにデザインしているか:中核に居る顧客の声を聞けているか
下調べをしたか:地道なテストや調査を徹底的にしているか
タイムリーであるか:市場で追う立場でなく一番であるか
不必要な悪影響をもたらしていないか:環境に与える不必要な悪影響は最小限に
環境への理念
パタゴニアは環境問題に対して社内でアセスメントを実施し、今までよしとしていた内容も踏まえ紳士にデータと向き合ってきています。
社内アセスメントで大きな問題と評価されたものは輸送にかかる環境コストです。一枚のTシャツをつくるために11万BTU(英国熱量単位:1ポンドの水を華氏1度あげるのに必要な熱量)かかります。その製品を航空便で送った場合5万BTUと作る工程の約半分にあたる化石燃料エネルギーが必要となるのです。導き出された結論は1.可能な限り地元で製造すること2.便利だからと安易に航空便を使用しない、ことでした。
エドワード・O・ウィルソン「生命の未来」では21世紀が「環境の世紀」であらねばと主張され、レイチェル・カーソン「沈黙の春」では農薬に対する危険性が訴えられています。
農薬が使用されると地下水は汚染されてしまい、持続可能な手法出ない一方、今の人口増加を支えるための食料供給を行う肥沃な大地が再生されるのは多大な年数がかかると言われています。この真実のバランスの上に資本主義的な発展が重なり環境への配慮が無いものづくりが行われています。
イヴォンは消えゆく原生地域が減るように会社として地球のための1%などの環境活動を行っています。その中で考えられた環境への5つの理念があります。
1.吟味された生活をする、2.自己の行動を正す、3.罪を償う、4.市民が主役の民主主義を支援する、5.ほかの企業に影響を与える
オーガニックコットンというのはマーケティング的な使われ方をしていますが、生産工程がオーガニックであっても染色・糸なめし工程で重金属染料・多くの油脂が使われている事があります。吟味された生活というのは、自身が使用するもの・食べるものがどういったように生産されているか今一度鑑みて見ることが求められていると思います。
また、現在のアメリカ人の消費スピードで全ての人類がものを消費すると地球7個分必要になると言われているようで、一つのもの(資源)を長く活用するということもとても大切な側面です。
まとめ:『死んだ地球からはビジネスは生まれない』
自然保護論者のデイヴィット・ブラウァーは健康な地球がなければ、株主も顧客も社員も存在しないと謳いました。
世の中には消費を促すマーケ手法、キャッチコピー、短命の商品性能、など溢れています。また、エコ・本物思考などもマーケティング要素として使用される事が大半であり、その謳い文句が正しいかどうかは自身で正しい知識を持って吟味する必要があります。
今の最適解は将来の最適解と異なるため、その時々で今までの知見と新しい視点を組み合わせて、一番正しいと思うものを選んで生活する事がより大切になってくるでしょう。
消費活動(物理的なものを製造し、使い、捨てる行為)や経済活動(旅行に行く、ものを買う)などの行為は少なからず環境に悪影響を与えています。飛行機の利用はダサいという風潮も最近聞かれることです。
そうは言っても生きていくためには環境悪なことと付き合わなければ行けないでしょう。社員をサーフィンに行かせようはそういったことを認識させてくれるとても良いきっかけになりました。