ガーディアンの記者オリバーバークマンの著書、限りある時間の使い方を読みました。
📒 Summary + Notes | まとめノート
人生は80歳まで生きるとしたらたったの4000週間、運が良くて90歳まで生きたとしても4700週間くらいになります。人生の有限性を認めることにより、より大切なことに目を向けるということはとても大切なことではないでしょうか。哲学者のセネカは「ようやく生きようかと思ったことには、人生が終わってしまうのが常である」と言いました。トマスネーゲルが語ったように「我々はみんなもうすぐ死ぬ」。
そうすると時間の使い方がとても大事ではないか。でもタイムマネジメントを学んだことによりより一層の仕事が舞い込んでくる。タイムマネジメントの罠に陥り大事なことを忘れる気がする。人生で本当にやるべきことは何であるのでしょうか。
なぜいつも時間に追われるのか
昔は今より寿命が短かったのにも関わらず、人々は時間が足りないと感じていなかった。時間というものが存在しなかった。というのも当時の人たちは時間というものを抽象的な存在として体験していなかった。
陽が登れば起きて、日が沈めが眠る。一日の長さは季節によって違うものでした。そんな価値観も数人以上で仕事をしようとしたときにわかりやすい時間の測り方が必要になり時計が発明されます。
ここから生まれた「時間を無駄にする」というような感覚は人生の難易度を引き上げてしまいます。どんなに必死に頑張ってもまだ何か足りない気がする。
生産性オタクになっていた著者はある時、何か違うと気がつき、この限りある時間の中でどうしたら良いのか、どう生きるのが良いのか解き明かしていきます。
効率化ツールが逆効果になる
現代では、自分ができることよりも多くのことをやらなければいけない、というのがごく普通のことになっています。どんな経済的な階層にも等しく見られるらしいのは、常に不安と焦燥に駆られている、どうやっても終わらない仕事の量を抱え、途方に暮れている。ということらしい。
この原因は効率化すればするほど仕事は降ってきて、メールを早く返せば返すほどもっと多くのメールが飛んでくる。
「もっと効率的にやれば忙しさから逃れられる」という希望を、あえて捨てればいいと著者は言います。
コンサートチケットをインターネットで買えるようになったために、選挙で並ぶことに耐えられなくなり、効率ばかり求めることにあまりにも慣れすぎてしまっています。
便利さを選択するとともに、あなたは大切なことに時間をかけることを手放しているかもしれない、という側面もあるのでしょう。
時間があるという前提を疑う
ハイデガーは世界がそこにあるという事実がとんでもなく驚異的であるということだと述べています。
無ではなく有であるという事実こそが何より凄いことなのだと。
有限性に直面することを、自分が望むかどうか。有限であることを受け入れてリハーサルのない人生をどう生きていくのか、ということが大切です。
多くの著名人が闘病生活を良い体験だったと言い、死への直面をくぐり抜けることにより時間との新しい関係を手に入れています。
捨てる喜びを手に入れ、選べなかった選択肢を惜しまず、貴重な時間の過ごし方を自分自身で選び取った結果として受け入れることが大切になります。
可能性を狭めると、自由になれる
タスクを上手に減らす3つの原則
- まず自分の取り分を確保する
給料をもらったら、まず自分の取り分を確保する。本当にやりたいことがあるのなら、今すぐにそれを実行すること。1日の最初の1時間は最も重要なプロジェクトに取り組む。自分自身とのミーティングをスケジュールに入れて時間をブロックしておくこと。
- 進行中の仕事を制限する
限りある時間という現実から目を逸らす方法として最も魅力的なのは複数のプロジェクトを同時に進めることです。進行中のタスクは3つまでに抑え、1つが完了するまで他の仕事は一切やらない。3つだけにすることで、必然的にタスクを小さく小分けしコツコツとできるレベルになります。
- 優先度中を捨てる
優先度が中ぐらいのタスクは邪魔になるだけで、いつかやろうと思わずバッサリ切り捨てた方が良いと言います。そこそこ面白い仕事のチャンスや、まあまあ楽しい友人関係。それは切り捨てるには惜しいように思えるけれど、限られた人生の時間を一番食い潰している可能性があります。
現実逃避をやめて、喪失を受け入れることができれば、有害な先延ばしに陥らなくて済む。出口のない優柔不断から抜け出すことができる。
仕事を辞めるにしても、子供を持つにしても、家を買うにしても同じです。迷っているうちは不安でいっぱいかもしれないが、思いきってしまえば、不安は消えてなくなります。
注意力を自分の手に取り戻す
SNSは注意力を奪うものです。セネカは人生の短さについて、の中で怠惰に生きる人たちを手厳しく批判しました。意図的な選択をし続けることを辞めよう。
哲学者はリーフランクファートは、自分の欲しいものを欲しがる能力を壊してしまうと言います。
簡単にスマホから注意を逸らす方法は難しいです。僕たちは自身の内に潜む厄介な敵のことを理解しなくてはなりません。
スティーブンヤングとういう白人が高野山で修行をしていた時に見出したのは、現実から逃げるのをやめれば苦痛が和らぐという事実でした。
現実は思い通りにならない、ということを本当に理解した時、現実のさまざまな制約はいつの間にか苦にならなくなっているでしょう。
時間と戦っても勝ち目はない
ホフスタッターの法則といい、どんな仕事であれ予想以上の時間がかかるというものがあります。これは半分冗談のようなものですが、僕たちが計画している活動は計画通りに進めようという努力に対して、あからさまに反撃している。
何が起ころうと気にしない生き方とは、未来が自分の思い通りになることを求めず、したがって物事が期待通りに進むかどうかに一喜一憂しない生き方です。
計画はただの考えに過ぎず、現時点での意思表示に過ぎない。時間を無理やり自分の支配下に置こうとしても仕方がないでしょう。
人生には今しか存在しない
時間をうまく使おうという脅迫観念により、時間を理想的な未来に辿り着くための単なる通過点になります。
未来のために現在をどれだけ犠牲にしてしまうことでしょう。
人生は今の連続であり、日々のありふれた活動に没入することが大事だと禅僧のティックナットハンは言います。
今を生きるというのは今ここから逃れられないという事実をただ静かに受け入れることかもしれません。
失われた余暇を取り戻す
古代の人々にとっては仕事こそが不明ようなものであり、余暇を楽しむことが人生の中心でした。
それが時間に支配され、余暇は仕事をするための回復期間という考えがより強くなってきました。
なんでもない時間に没入しそこから気がつける多くのこともあります。
カレンリナルディは暇さえあればサーフィンに出かけますが、上手くなりたいという思いではなく「最高の一瞬を捉えようとする過程で、経験できることがあります。‥無益なことを追求する自由。何にも気にせず、下手なことを楽しむ自由。心が洗われます」
忙しさへの依存を手放す
時間をよりコントロールしようとする僕たちは、現実を受け入れる必要があります。物事には必要なだけの時間がかかるものだし、どんなに急いでも不安が減るわけではない。世界のスピードを思い通り動かすことは不可能です。
物事の進むスピードを自分はコントロールできない。
留まることで見えてくるもの
忍耐や我慢という言葉にはネガティブな響きがあります。元々は忍耐というのは自分の無力さに甘んじる態度であり、いつか良い時代が来るのをじっと待つという受動的な生き方でした。
しかし社会が加速した現在では忍耐が武器になります。
ハーバード大学の美術史を教えるジェニファーロバーツは最初の授業で美術館に行き同じ作品を3時間じっとみるという課題を出します。
最初は耐えられない生徒たちもある一定時間が過ぎた頃に退屈な時間や他の何かをしたいという時間への支配から逃れ作品と向き合うようになります。
忍耐を身につける3つのルール
- 問題がある状態を楽しむ
- 小さな行動を着実に繰り返す
- オリジナルは模倣から生まれる
かけがえのない成果を得るためにはたっぷりと時間をかけることが必要です。
時間をシェアすると豊かになれる
個人主義的な考えやデジタルノマドのような働き方をする現代では時間を共有することが少なくなってきました。
ボルトが最高の成果を出せたのは横を走るタイソンゲイと足の動きを合わせたために生まれた偉業です。
オスマン帝国の軍隊は共に行進の動きを合わせることでより長い距離を移動できていた。
時間は自分のものになりすぎないくらいが、実はちょうどいいのかもしれません。
ちっぽけな自分を受け入れる
パンテミックがあろうと、大統領選挙で誰が当選しようと、宇宙は平穏無事に進行している。宇宙はあんたのことなんかクソほど気にしていない。
誰もが、自分のことを宇宙の中心的存在のように思っているデフォルト設定から抜け出すことで、自分の与えられた時間をそのまま味わうことができます。
暗闇の中で一歩を踏み出す
人生を生き始めるための5つの質問
- 生活や仕事の中で、ちょっとした不快に耐えるのが嫌で、楽な方に逃げている部分はないか?
- 達成不可能なほど高い基準で、自分の生産性やパフォーマンスを判断していないか?
- ありのままの自分ではなく、あるべき自分に縛られているのはどんな部分だろうか?
- まだ、自信がないからと、尻込みしている分野は何か?
- もしも行動の結果を気にしなくてよかったら、どんなふうに日々を過ごしたいか?
時間をうまく使ったといえる唯一の基準は、自分に与えられた時間をしっかり生き、限られた時間と能力の中で、やれることをやったかどうかだ。
大事なのは、あなただけの次の一歩を踏み出すことです。
感想
社会はいつの間にか時間に支配され、アテンションエコノミーと題されたいかに人に時間を使わせて消費させるかという科学から抜け出すべく、生産性を求める工夫をうたう術が増えています。
いつしか仕事に忙殺される毎日で、余暇は仕事から逃避するための手段として考えられることもしばしばです。
生産性オタクの著者が言いたいのは、生産性術が悪いのではなく、有限な時間を認めることを前提にした生産性を考えることが大事だと言います。限られた時間の使い方でパニックになったり、後悔したりするのではなく、今を生きるための時間の使い方をしようという考えは、何か忘れがちな物を思い出させてくれるように思いました。
有限性を受け入れるための10のツール
- 解放と固定のリストを作る
- 先延ばし状態に耐える
- 失敗すべきことを決める
- できなかったことではなく、できたことを意識する
- 配慮の対象を絞り込む
- 退屈で機能の少ないデバイスを使う
- ありふれたものに新しさを見出す
- 人間関係に好奇心を取り入れる
- 新設の反射神経を身につける
- 何もしない練習をする
📚 Relating Books | 関連本・Web
- https://amzn.to/3QvuyHa生の短さについて 他2篇 (岩波文庫) 文庫 – 2010/3/17 セネカ (著), 大西 英文 (翻訳)
- https://amzn.to/3RUvztl 文化としての時間 単行本 – 1983/9/1 エドワード・T.ホール (著), 宇波 彰 (翻訳)
- https://amzn.to/3BAguIm 全面改訂版 はじめてのGTD ストレスフリーの整理術 単行本 – 2015/11/26 デビッド・アレン (著), 田口 元 (その他)
- https://amzn.to/3DdW49b 技術と文明 (1972年) - – 1972/9/15 ルイス・マンフォード (著), 生田 勉 (翻訳)
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- https://amzn.to/3BfMvnI 存在と時間〈上〉 (ちくま学芸文庫) 文庫 – 1994/6/7 マルティン ハイデッガー (著), Martin Heidegger (原著), 細谷 貞雄 (翻訳)
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