世界同時販売された話題のイーロン・マスクの自伝を読みました。発売にあたり著者のウォルター・アイザックソンは色々なメディアのインタビューに答えているのも見ていて面白かったです。
📒 Summary + Notes | まとめノート
南アフリカ時代
イーロン・マスクの母方の祖父ジョシュアハルデマンはカナダの農場で育った冒険家であり、世界大恐慌で農場を手放し、様々な職を経験した後に南アフリカへの移住を決断します。「危険に生きる - ただし慎重に」が家族のモットーとなりアフリカからオーストラリアまでの単発機による飛行など冒険好きの祖父でした。
イーロンの母親メイはこの遺伝子を受け継ぎ、美人で合ったこともありモデルとして活動し不良っぽいお調子者のエロールマスクと出会います。エロールの商売は鉱山から取れたエメラルドを使い商売をしたりと闇の商売とも言えるものでした。
浮気者のエロールとメイは度々喧嘩やプロポーズを重ねて結婚までするも、エロールは新婚旅行でプレイボーイを買い込むなど喧嘩の火種はなくならず離婚も考えていた頃につわりがあり妊娠を知ります。
イーロンは小さい頃から好奇心旺盛でロケットや火薬で遊んでおり、思い返すと指がなくなったりしなかったのは奇跡だと本人が語っています。幼稚園の頃から窓の外を見て考えにふけっていたりと情報の処理を人並みにこなすタイプではなく、のめり込むと周りが見えなくなるタイプでした。
エロールの本人の証言によると手を挙げることはなかったと言いますが、メイもイーロンも弟も含め父親の暴力には悩まされておりイーロンが8歳の時に離婚へと進みます。
離婚時はメイの方に引き取られたイーロンも10歳の時に後に後悔する決断をします。孤独だった父親を思いそばに居てあげるべきとの思いで父親と生活をすることにしました。父親の暴力に悩まされるものの、過酷な南アフリカにて当時から怖いというよりも正しいと思う事をする思いや、競争心がずば抜けて高かったと弟のキンバルは言います。
学校の成績は2科目以外よく、アフリカーンス語、宗教指導という科目には意味がないと思いやる気が起きなかったので本を読むかビデオゲームをした方がましと思っていました。
読書が唯一の心のオアシスだったイーロンは物理学や哲学(ニーチェ、ハイデッガー、ショーペンハウアー)、ロバートハインラインや銀河ヒッチハイク・ガイドのSFものなど読みました。
エロールは2重人格のように感情の起伏が激しく暴力や妄想、陰謀論が酷く脱出を試みます。イーロンはルーレットの必勝法を見つけたというエロールに対してコンピューターで作成したルーレットのシミュレーションなどを作成し説得しますが「工学を得意とした人が魔術を信じるようになるのか首をかしげるばかり」と話をでっちあげたりする父親に呆れます。
イーロンはカナダの親戚リストを片手にトラベラーズチェック2000ドル、母親がビューティーコンテストの賞金で買っていた株を売った2000ドルのみを持ってモントリオールに降り立ちます。
結局母親もカナダに移住してきてトロントで暮らすことになりますが、イーロンはマイクロソフトのトロント事務所でインターンをし、開いている時間は本を読むかコンピューターをいじるかしていたようです。
大学時代からペイパルへ
イーロンはSATを受けトロントから車でいけるクイーンズ大学へと進学。寮の友達と自分をさらけ出せる関係となり、生まれてきた意味や哲学的議論を夜遅くまでしたり、ボードゲームやコンピューターゲームをよく行っていました。
クイーンズ大学の勉強は物足りず退屈だったところ、クラスメートがペンシルバニア大学へ移籍したとき自分も行けないのか検討し、奨学金制度があることを知りお金の心配も無いということで移籍します。後に中国テスラで働くことにもなる中国の物理オリンピック優勝者のロビンレンとは特に仲良くなり実験ではコンビを組んでいました。イーロンは卒業論文に「太陽エネルギー活用の重要性」をかきあげており、当時から気候変動リスクについて関心を持っていました。
夏はインターンにピナクル研究所とロケットサイエンスの2社で働くなどし、すぐ働くことを求められたりしましたが大学卒業をしてからとし、大学卒業後に再度シリコンバレーへと向かいます。
「人類に大きな影響を与えることがしたいと考えていました。思いついたのは3つ。インターネットと持続可能エネルギーと宇宙旅行です。」と当時の考えが今に結びついています。
スタンフォードで博士号を取得していたスコシアバンクのピーターニコルソンにアドバイスを求めてスタンフォードの博士課程に進学するかインターネットの企業アイデアを始めるかで「インターネット革命は一生に一度のチャンスだ。鉄は熱いうちに打てだよ。」と言われスタンフォードを入学早々休学してZip2を開始します。
Zip2では弟のキンバルや母のメイが度々シリコンバレーまで来るという家族総出で行います。当時からイーロンの働きぶりはタフで結果として300万ドルの投資を獲得します。弟のキンバルでさえ兄の事は好きであるが一緒に仕事をするのは大変と言うほど過酷に働き、共感力があまりないタイプでけんかが耐えなかったようです。
会社には経験豊富なCEOが外部から来るなど他のスタートアップが味わった施策と同じことをされ、最終的には売却へと繋がりイーロンは27歳にして2200万ドル、キンバルは1500万ドルを手に入れます。
YMCAでシャワーを借り事務所の床で寝る生活が終わり100万ドルのマクラーレンを購入することになりました。
次にイーロンはXドットコムと言う銀行サービスの取り組みを始めます。仕事では荒々しく気遣いが無く、夜まで働く様子で共同創業者のハリスフリッカーがCEOを辞任してくれと頼む事もあったようで、結果フリッカーが退職することになりました。
感謝祭の週末にXドットコムを公開すると、エンジニアは感謝祭中ずっと仕事をする羽目になり、毎日机の下で寝泊まりします。流石に見かねたマイケルモーリッツがビルハリスをCEOとして召喚します。
Xドットコムはソーシャルネットワークだと考え、バイラルマーケティングに力を入れ、またユーザーインターフェースを可能な限りシンプルにし、電子メールで送金できる機能に辿り着きました。
同時期に同じセコイアが出資しているコンフィニティ(ペイパル)と呼ばれる企業と資金が尽きるかの体力の削り合いをしており、最終的に合併に動きます。合併時の交渉ではイーロンがコンフィニティのピーター・ティールやレブチンに対して「90%、10%」とあり得ない盛りまくりの数字を提示しますが、最後は55%で落ち着きました。
ペイパルでもイーロンの働きぶりは異常で、独立のエンジニアリング部門を解消し、エンジニアは製品マネージャーとチームにするなど、設計と製造を分離しない方針(後にテスラ、スペースX、ツイッターでも同様となる)を組み入れます。
仕舞にはクーデターが起き、とある日突然イーロンは追い出される事になり3年で2回目の追い出しを味わいます。当時イーロンとカードゲームをした時、毎回必ずオール・インして負けるとまたチップを払い倍の金額をオール・イン、そして買った時に「これでよし。」と辞めるという彼の生き方を表したエピソードがあります。
スペースX、テスラ
スペースX
ロシアにロケットを買いに行くと交渉後に値段を釣り上げられるなどの不義理をされる経験を通じて自信でロケットの会社を立ち上げる事になります。トムミューラーというロケットずき少年であり倉庫でエンジンを作っていたエンジニアがイーロンの目に止まります。スペースX社員第一号となりました。
スペースXはNASAや軍が定めている仕様や要件に対して守るのではなく、誰が作ったのか担当者個人レベルまで押さえておけと言い、要件は疑ってかかれという事が「例のアルゴリズム」と呼ばれることになります。
またスケジュールに関しては積極的なスケジュールだと提案したものから半分にしろ、やれと言われたらやれというような切迫感をいつでも持たせる体制を取っていました。
失敗を許容する文化もあり、イーロン自信のコメントも時に失敗を招くことがありますが、ボーイングで働いていた若手のやる気のあるエンジニアはこの文化に強く惹かれてこれこそがやりたかった事であると移籍するメンバーも多くいました。
本書ではイーロンと仕事をした数々のメンバーがインタビューされているのですが、驚くほどの割合で辞める人ばかりです。その中でスペースXで20年以上共に仕事したグウィンショットウェルの紹介があります。
NASAとの仕事を獲得したり、以前まで常識であった実費精算を辞め固定価格契約へと改革しメーカー側の責任が増えました。
スペースXの最初の危機は予定していた発射台がスパイロケットの発射の影響で使えなくなり、マーシャル諸島のクワジェリン環礁で急遽打ち上げします。潮風が酷く、発射台まで船で荒波を乗り越えてを毎日繰り返す過酷な環境で次第にコンクリートの上で寝るようになります。3回失敗し、その間ミスをしたとしてミスをしていなかった人間までも解雇されます。
4回目の挑戦でついに成功し、2008年最も悲惨な年の締めくくりにNASAから大きな契約を得ることができました。
スペースXは毎年今まで国家レベルの発射回数を軽々と乗り越え、今年もまた記録を伸ばそうとしています。
スターリンクはスペースXに取って安定した収益源である一方で、マスクはより小さくならないのかと見ているとスターリンクのチームに危機感があまり無いことから上層部を全員クビにして信頼できる技術者8人を後任とします。そこで第一原理からやり直すことにして削れるものを全て削る事になりました。
後にスターリンクはウクライナ戦争で大活躍するものになるのですが、一方でクリミア攻撃の際に突然圏外になるというトラブルを呼びます。というのもマスクが指示してクリミアの攻撃にスターリンクが活用されるというのを非難し、スターリンクは人を殺すために使われるものではないという意思を表明し多くの批判を呼びました。また、この際に使用料の請求も行うと慈悲活動に転じることになるのですがこれも批判を呼ぶ結果になります。
テスラ
テスラの開始についても書かれており、元々エバーハード、JBストラウベル、ターペニングがイーロンに出資を求めて立ち上げられた会社でした。
イーロンはテスラでも元々のサプライチェーンが複雑な自動車産業の文化に疑問を呈し、品質とコストとサプライチェーンという自動車産業の問題を見直し、主要部品を内製化することに踏み切ります。最初の車となるロードスターに美しさを求め惚れて買うものにしないといけないと開発設計をします。
最終的にエバーハードはマスクから原価についてしつこく聞かれて答えられないと窮していると突然CEOを解任させられます。
後にエバーハードとは多くのトラブルを重ね、イーロンは最悪のメンバーであったとも言います。
Founding story of Tesla as portrayed by Eberhard is patently false. I wish I had never met him.
— Elon Musk (@elonmusk) 2021年11月13日
Eberhard is by far the worst person I’ve ever worked with in my entire career. Given how many people I’ve worked with over the years, that’s really saying something …
テスラは2008年深刻な資金難に陥っており、そこで助けになったのがダイムラーでした。ダイムラーのチームが来る際に電動システムを載せた試作を間に合わせるためにメキシコで買ったガソリンスマートをカリフォルニアまで走らせてバッテリーパックとモーターを載せてプレゼンすると、テスラに到着した時にあまりにやる気の無かったダイムラー陣営が度肝を抜かれて資本参加が決まり修羅場を乗り切りました。
テスラの生産工場を探している際にグローバル化の波で国外工場を設置した動きに疑問を持っており、国内で大きな規模で生産を望んでいました。その時見つかったのがトヨタが合弁企業を立てて使っていたフリーモントの工場です。この時もトヨタの心を掴み格安で跡地を購入しました。
テスラの工場稼働時には本人は泊まり込みで夜には工場をうろつき周り、問題のある場所で担当者を呼びゲイジコフィンは直接話せた嬉しさと質問されたことに対して具体的な内容を確かめようと質問をしかえしたり口ごもってると「お前はばかやろうだ。出てけ。戻ってくるな」と一瞬でクビにされ、一週間後は上司までクビになりました。
ギガプレスはミニカーを見ていた事から着想を得てすべてをひとまとめに成形するという手法で今では業界スタンダードになりつつあるようです。
テスラでもスペースXでも「アルゴリズム」と呼ばれる戒律があります。
- 要件はすべて疑え。要件には、それを定めた担当者の名前を付すこと。…その要件を疑え、そしておかしなところを少しでも減らせ。
- 部品や工程はできる限り減らせ。あとで元に戻さなければ無くなるかもしれないが、それでいい。
- シンプルに、最適にしろ。
- サイクルタイムを短くしろ。工程は必ずスピードアップが可能だ。ただし第1〜3戒が終わったあとにやること
- 自動化しろ。これは最終手段だ。
これに加えて、管理者は実戦経験を積むこと。ソーラールーフの管理職なら自分も屋根で取り付け作業をすること。仲間意識は危ない。自分がやりたくないことを部下にやらせてはいけない。規則と言えるのは物理法則に規定されるものだけだ。なども描かれています。
ポリトピア処世術
ゲーム好きなイーロン・マスクを見てキンバルはポリトピア処世術をまとめています。
- 共感は資源ではない。
- ゲームのように人生を送れ。
- 敗北を恐れるな。
- 先を見越して動け。
- ターン毎に最適な手を打て。
- 倍賭けする。
- 選んで戦え。
- 休むのも大事。
2018年からのマスク
2018年はマスクにとて大忙しの年でした。テスラ上海工場や、生産問題。そして最近のサマソニでも話題になりましたがグライムスとの出会いがあります。
イーロン・マスクは極端に一人になることを嫌う時があり、そのためホテルも嫌いで誰かの家に泊まる事がよくあります。グライムスはバンクーバー出身でSFに大きな影響を受けてドリームポップやエレクトロニカの要素を散りばめた作風が魅了されています。二人は出会ってデートを重ねて、マスクの家で過ごしたりしており、グライムスがバンクスとコラボレーションする際にマスクの家に呼ばれた時にバンクスからゴシップを流されテスラの非公開化というセンシティブな話もリークされたりします。
グライムスの曲Player of Gamesはイーロンとの恋愛関係を描いた曲と言われています。
Twitterの買収へ
ツイッターの買収はとても最近の話であるますが、本書の後半半分はツイッターの話が主になります。元々買うか迷っている中で自信でも決断がついていない時に話は進み、買うのを躊躇したときには弁護士にもう買わない選択肢は無いという事で買収に進みます。
元々言論の自由の場の大切さを実感していたマスクはツイッターの影響力や元トランプ大統領のアカウント削除などに問題を感じていました。最終的にはツイッターファイルと呼ばれると呼ばれるツイッターの非表示措置について何が行われていたかの公開をします。
ツイッターに入り込むとお決まりの質問攻めで「わからない」という回答が多すぎてどうしようもない組織だと怒ります。人も抱えすぎており人員は多くクビにされ、多様性を尊重する企業から一気にスパルタ企業へと変わります。
ここ一ヶ月でコードを100行以上書いた技術者を洗い出し、優秀な技術者をリストアップ、「コーディングを知らない製品マネージャーが、どう作ればいいのかもわからないまま、機能の作成を指示」していたりと問題があるメンバーを次々とクビにします。
リアルタイムでツイッターに投稿される様子を見ながらこの企業はどうなるのだろうと見ていましたが、コンテンツポリシーについてやツイッターブルーの導入の経緯など主要人物の証言を元に纏められており、混乱そのものです。
本書で度々出てきますがもうコントロールできないモードになると停められることもなく、完璧主義であり、忠誠を誓わせるなど一緒に働くのはスリリングながらも大変そうでした。
感想
イーロン・マスクの幼い頃から、最近話題のChatGPTへの関わりやAIへの危惧、GoogleとのAIでのわだかまりなど面白いサイドストーリーが多く読み応えがある本でした。OpenAIに出資していたもののOpenAIの民間化はマスクとの蟠りなど知らなかった事も多くありました。
本の内容が正しいのかどうかは本人達でないと結局わからないとは思いますが、アイザックソンによる2年間にも及ぶ密着と美しい整理で真実に近いものを読めたのかなとは考えています。
ギークであり、物事に集中すると体力の限り働き続け根本から考え直し次々と物事を実現していく姿は科学に明るい情熱のあるジャイアンみたいな感じです。
私生活の寂しがりである所やアスペルガー気味な話、イメージそのままのような内容も多く、ペイパル解任時に宣伝部長として残ろうとしたストーリーなど、中二病みたいな命名が多くあまり向いてなさそうでそうならなくて良かったと思える物語もいくつかありました。
Xドットコムでやりたかった決済システムのソーシャルネットワークについて、これからのツイッターでどう実現していくのか、今後もイーロン・マスクから目が話せない時代が続きそうです。
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