前回シリーズものの1冊目を読んだ橋本さんの本ですが、本書は銀行が推進した資産運用についてフォーカスを当てた2冊目になります。
今ではインデックス投資全盛で、SBI証券や楽天証券で積立NISAなどという話がかなり幅広い層に広まったために本書に書いてあるような悲惨な状況も変わりつつあるとは思いますが、一昔前には個人年金型の生命保険、また売れ筋商品などと言われる銀行が推奨する(けれども顧客の利益は出にくいもの)を売り続けていた歴史があります。
本書で度々でてくるフュデューシャリーデューティー、日本語で言う所の真に顧客本位の業務運営という哲学について金融庁から見直し活動が始まり、手数料で儲けるような商品ではなく、顧客の利益を守れる仕事への変化が始まり、手数料開示などの動きへと結びつきました。
📒 Summary + Notes | まとめノート
金融商品ビジネス
日本は歴史的に資産運用はせずに、資産の大半を現預金や国債などの低リスク資産で運用することが一般的でした。
今ではGPIFの好成績が毎年話題になっているのですが2014年に構成割合を大きく変更して株式保有比率を50%まで引き上げたのもこの10年の話です。
初代NISA制度も2014年からであるので、日本の投資呼びかけはこの10年ほどの歴史になります。森金融庁が資産運用改革に取り組む中でニッポンの資産運用の問題点を取りまとめ、米国では13%、英国では24%が現預金の資産割合であるのにもかかわらず日本では50%にも及びます。
米国では純資産残高のランキングに米国株式インデックス、世界株式インデックスなどのインデックス商品ばかりが連なる中、日本ではトップが米国REIT、海外REIT、米国REIT、海外株式などとインデックス商品は無いランキングでした。日本では往々にして手数料の高い商品ばかりが上位に連ねます。
これはいわば銀行が頑張って手数料の高い商品を売り込んだという背景もあります。
フュデューシャリーデューティー
金融機関の歴史は長く、英国では中世から「受託者責任」と呼ばれる受益者の利益を優先する考えが整理されてきました。①クライアントの利益優先、②利益相反の回避、③直接、関節コストの合理性と開示、といったように日本の投資信託運用や積立型の生命保険にあるような不透明さ、手数料の曖昧性などは認められない環境づくりが海外では進んできました。
バンガードのようなインデックス・ファンド、手数料への厳しく低くする姿勢などが生まれたのもアメリカです。バンガード以前ではアメリカでも手数料の高い投信が多くありましたが、バンガードは社員が高級車を乗り回すのも一等地にオフィスを構えるのも文化として起きず、フィラデルフィアに本社を構え、経費を大事に使う文化が根づきました。
顧客本位へ
金融庁が発表したFDの方針は次の通り
- 顧客本位の業務運営に関する方針の策定・公表等
- 顧客の最善の利益の追求
- 利益相反の適切な管理
- 手数料の明確化
- 重要な情報の分かりやすい提供
- 顧客にふさわしいサービスの提供
- 従業員に対する適切な動機づけの枠組み等
著者がおすすめする心構えとしては次のような商品選定をすることです。
- 手数料の相対的な安さ
- 税制優遇制度の活用
- 商品、サービスが初心者に分かりやすいか
- 変化に対応し、長期運用できる商品か
- 為替リスクに対応できているか
- 運用会社、販売会社からフュデューシャリーを感じられるか
感想
日本の資産運用はかなり悲惨な歴史を持つのですが、最近は本当に良い時代になってきたように思います。インデックス投資の認識が増え、NISA枠や確定拠出年金の制度も整備されており過去のどの時代よりも投資信託の購入などにハードルが下がり、そこにインセンティブも設計されている状態になります。
情報も銀行員から勧められたものを情に訴えかけられて買わざるを得ないような状況に陥らずに済むようになっています。窓口の人たちもなんでこれを勧めているのかわからないようなものを銀行のノルマや手数料稼ぎとして売る時代もあり、退職金を勧められるままに運用してもらうなんて恐ろしいように感じます。
このインデックス全盛期の時代でアクティブ運用を続けるファンドは軒並み指数に勝ててないのですが、それが表面化してきて良い時代にもなりました。目録書などを見ると明確に怪しい雰囲気の投資信託は手数料や運用成績の開示の仕方が掲載されるようになってきたりと良い時代ですね。
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