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奪われた集中力: もう一度〝じっくり〟考えるための方法 | ヨハン・ハリ (著), 福井昌子 (翻訳) | 2026年書評16

ある時、集中力について失われている、読書も仕事も集中できていないと感じた著者は世界中の研究者に会い集中力についてインタビューしていくことにしました。

著者が集中力について知ることに関して3つの点から先立ちます。

  • 個人レベルで言えば、気を散らすものばかりの生活は劣化しているということ
  • この注意散漫は一人ひとりの問題であるだけではなく、社会全体に危機をもたらしていること
  • 何が起きているのかわかれば、変えることができるということ

本の構成は主にいかに世界中の才能がSNSを通じてより画面に人々の集中を保つことに費やしているのか、そしてストレスによる集中力の喪失、最後に食べ物にまつわる集中力との関係といった内容になります。大部分はSNSに関する話がまとめられており、特にその点について知りたい人にとっては面白い内容なのではないでしょうか。

原因

  1. 速度、スイッチング、フィルタリングの増加
  2. フロー状態のマヒ
  3. 身体的・精神的疲労の増加
  4. 持続的な読書の崩壊
  5. マインド・ワインダリングの混乱
  6. あなたを追跡して操作する技術の台頭
  7. 残酷な楽観主義の台頭
  8. ストレスの急増と、過覚醒を引き起こす仕組み
  9. 食生活の乱れと汚染の悪化
  10. AHDHDの増加と向き合い方
  11. 子どもの監禁

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📒 Summary + Notes | まとめノート

SNSと集中力

ツイッター、グーグル、レディットのデータでは個別のトピックについて人々が集中する(話題にする)期間がどんどんと短くなっているという調査結果があります。個人レベルで起きていると思われていた一つの物事へ対する意識の持続性低下は集団で起きているものでした。

このことを発見したスーネは、人々に対して早く読むことの訓練をしてその人達の理解についても調査したところ、速く読めば読むほど人々の理解は薄いという結論にたどり着きます。認知的処理能力というのは人それぞれにあり、急ぎすぎると能力に負荷がかかり処理能力が低下してしまうということでした。

最近ではマルチタスクという言葉があたかも効率的作業の代表というように語られていますが、マルチタスクについても研究結果があり、人々は複数の複雑な作業はできておらず、タスクをただ切り替えている、そして意識の中ではあたかもシームレスに行われていると感じてしまっているという調査結果もあります。スイッチコストと呼ばれるものはこのタスクの切り替えによる失われる意識に対する考えで、タスクの切り替えが多くなるほどいわば無駄に脳のキャパを使ってしまっているというものです。

タスクの切り替えを行わなくて良いように邪魔になるものをできるだけ排除することが集中力を保つ根本になります。

フロー状態というチクセントミハイが提唱した極めて集中した状態がありますが、マルチタスクはフロー状態を台無しにするものであり、マルチタスクをする中ではフロー状態に到達しえないことが見つかります。そもそも、人々の注意を払うという性質は野生の動物を捕まえる時など生存戦略としての本能であり、また眼の前の作業があまりに簡単すぎると脳の力を使わない自動操縦の作業としてしまう。

失われたフロー状態とともに読書の時間も失われつつあります。米国では1978年から2014年の間に1年に一冊も本を読まない割合は三倍にもなりました。一方で2017年には平均的なアメリカ人の本を読む時間は1日17分であるのに対して、スマホには4.5時間費やすといいます。また、読書の楽しみ方も変化し、没頭する娯楽ではなくなり、気になる所だけを掴み読みしてしまうような行為へと変容していきました。著者が思う読書が教えてくれる大切さが失われつつあります。

  1. 人生を理解したければじっくりと考えるためにかなりの時間を取らなければならない
  2. 他の心配事を後回しにして、1ページずつ集中し注意を絞り込むことの価値
  3. ほかの人々がどのように生きているのか、どのように意識を働かせているのかについて深く考える価値

人々は短い番組をみても共感能力は発達しにくく、長時間のTVシリーズなど継続的に何かに集中することで共感が磨かれるという側面もあります。

集中とは別に、マインドワンダリングと呼ばれる作業中に意識が整理されることがあります。シャワーを浴びてたり、散歩をしていたらアイデアが浮かんでくるというたぐいのものですが、マインドワンダリングは普段集中しているときとは別の脳の部分が活性されることで起きます。マインドワンダリングを妨げるような次から次へと集中して考える時間を妨げるものに触れていると思考を抑制してしまうことにも繋がらります。

過去にGoogleで勤務し、現在はオックスフォード大学に居るジェームズ・ウィリアムズはテック企業がどのように注意を引き付ける努力を行っているのか、またそれが倫理的に問題があるのではと疑問を投げかけテック業界から身を引いた人物です。

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スマホは無限スクロール、アラート通知、ストリーク機能などを用いることで人々がアプリ上で滞在する時間を引き延ばそうと努力をしてきました。というのもテック業界のビジネスモデルはいかに画面上で広告を見せて、広告主がその場所を借りるための費用を払うということで構成されています。そんな注意を研究するジェームズ・ウィリアムズが言うにはデジタルデトックスは解決策になりえないとも言います。

トリスタンハリスは同様にGoogleで勤務していたものの、世界中10億人もの人々の注意を引き付けるために開発される様々なアテンション技術に対し、倫理的な問題を感じ退職をしました。

テック企業はわたしたちの行動履歴を全てスキャンし、カテゴリ分けして最も効果的と思う広告を表示させます。おむつを買わなきゃと誰かにメールすればベビー用品が表示される。動画の内容によってその次にどの動画が最も見られやすいか傾向が図られ画面に惹きつけられる動画を表示する。

ファイスブックで問題となった、人々を引き付けるための「攻撃」「悪い」「非難」などといった言葉が含まれる投稿がよりビューを稼ぐことができるとしてそういった内容が表示されやすいタイムラインを映し出すということもある。ユーザーを憤らせ、怒らせることが優先されました。さらには周囲の人々が怒っているとも思わせる仕組みでもあります。

これらの仕組みにより人間のダウングレードが起きている。世界中の天才エンジニアたちによって人類が悪い方向に進んでいるのでは無いか、トリスタンとエイザは言います。このシリコンバレーの注意力を奪う努力は、ハマるしかけ、という本にもまとめられました。

こういった注意力の喪失の解決策について、ポモドーロテクニックや瞑想などが昨今語られているものの、根本的な深い解決策は監視資本主義を禁止することではないでしょうか。

この思想は昔はペンキに使用されていた鉛、そしてスプレーに含まれていたオゾンなどの人体や環境に悪い物質を規制して成功したことなどと同じ思想です。テック企業が人々のデータを集め、そこへ広告のための多くの資金を支払うクライアントを持つ広告ビジネスを辞めてサブスクリプションサービスになることが根本的な解決だと言います。

ストレスと集中力

現代ではADHDと診断されるケースが増えています。一つの理由には幼い頃の経験からトラウマとなり発症すること、ストレスや刺激が過度なことからと考えられています。

ストレスにも様々あり、代表的なものは経済的なストレスです。インドのサトウキビ畑を対象にした研究では収穫前と収穫後、つまり金銭的な状況の違いでIQを測定した所収穫後には高い数値がみられました。

経済的にしのぐ状況があるとあらゆるものに対して警戒心が強くなる。こういった話は過去に読んだEducatedなどでも書かれています。次から次へとタスクに追われる生活もストレスを与える原因になります。パーペチュアルガーディアンという企業では週五日から4日へと試験的に勤務時間を減らすと、従業員たちは得られた休暇でリラックスでき、仕事中に注意散漫になること、チームワークや励まし合いのレベルが改善されました。従業員たちは良く休み、睡眠時間が増え、読書量が増え、労働生産性は変わらないという結果でした。

食生活と集中力

著者はスイスの農家である父を持ち、スコットランドの労働者階級家族の母といったそれぞれ異なる食文化の家族を持っていました。スイスの祖父母の家に行くと食卓には自分たちで育てた野菜や肉は家畜から取られたものであり、スコットランドでポテトチップスやチョコレートといった加工食品を食べて過ごしていた幼少期からするとスイスでの食生活は退屈なものでした。

現代の食文化は血糖値が急激に上がりそしてそれが急降下すると集中力は失われて集中ができなくなるといった弊害があります。またこの急降下には疲労感も伴い、脳には霧がかかったような効果をもたらしてしまいます。

食生活だけではなく、鉛やタバコといったものもADHDの発症を増加させる傾向にあるとも言います。1920年代、鉛産業はあらゆる段階でこの不都合な事実に対して抵抗しました。環境に根本的な問題があったものの、子どもたちが鉛ペンキを舐めて口にしてしまうようなものを問題行為といった個人の問題と置き換えて産業が社会にマイナスの影響をもたらしました。この唯一の解決策はこの問題が市民運動となり政府が規制をやっと作成したことでした。

感想

集中力とテックビジネスとの関係について様々な角度から物事を紹介してくれているとても面白い本でした。個人レベルでできるライフハック的なものは多く本が出ていますが、そもそも規制レベルで対処が必要であるといった話は、監視資本主義以来にも思います。

ちょうどタイムリーな話では、イギリスで無限スクロールへの規制が考えられていたり、オーストラリアなどでは未成年のSNS規制ができたりなどしています。

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昨年パースへ旅行したのですが、確かに人々がスマホを見つめる姿は少なく公共交通機関の様子は東京や良く行く上海とは異なる景色でした。

この資本主義社会で、多くのテック企業は広告ビジネスを行っているために、人々の注意を引き付けることはとてつもなく重要であり、そこへ高い給与が支払われ世界中の天才たちが集まっています。もちろん人生をより良くする方向への変化もあったと思いますし、世界中の情報がYoutubeで見れる事、旅行前に多くの下調べで素敵な店や景色など土地勘もないのに見つけることができるようになった幸せな時代だと思いますが、資本主義としてそこに人々を幸せにしない方向にあるスマホに目を向かわせる努力が行われています。

思えば、検索システムが出された頃の検索しても知りい情報と関連しないことばっかり上がってきてどうしようも無かった時代と比べると、明白に巧みな情報取得ができます。

著者の主張でいくともっと大きなムーブメントとして、政府が動くレベルとなり規制が作られない限りこのループからは出ることができないといったようで、本書の最後にはそういった活動に参加するコミュニティの紹介されています。

SNSの規制は資本主義社会への抵抗の意味合いがあると思いますし、主に政府が動いているのは欧州、国内ビジネスの防波堤としているのは中国、はたまたあとはシンガポールといった地域で、米国や日本ではほぼそういった指摘や動きはみられていません。規制を待っていてもできないのでムーブメントを作るというのは一つの方向性として理解できるものの、自分が思うには個人レベルでやれることをコツコツとやっていき、天才たちが考えた仕組みに抗う方法を見つけるしかないのかなとも思います。

ただし、冒頭にもあったように、仕組みを理解することで対処法を考えることができるというヨハン・ハリの主張は最もで、集中力を奪う努力の仕組みを理解することで、それに対処するモチベーションや方法を考えるようにできたらと思いました。

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