魚の消費量は年々低くなってくるという逆境の中鮮魚ビジネスでイノベーションを起こしてきた東信水産の物語をまとめた本です。
引用:https://www.minato-yamaguchi.co.jp/minato/e-minato/articles/72512
著者でもあり東信水産の代表取締役社長の折茂さん。大学時代は東工大で化学を勉強しその後商社に入社した後に現職へ。苦しい業界の中で何ができるのか、鮮度が大事なアイテムを用いたビジネス、また人件費などの人事管理をシステム面から最適化、歩留まり50%の魚においてバックヤード店舗面積の縮小化に対して流通の革命を起こして利益を生み出す取り組みが面白い内容でした。
📒 Summary + Notes | まとめノート
養殖
養殖産業は元々天然品に劣るようなポジションにあり、天然を再現しようと言う取り組みでしたが気がつけば養殖で餌を工夫して瀬戸内海のオリーブを活用したオリーブぶり、オリーブはまちなどの付加価値品が作り出されています。
養殖の大きな成功例にノルウェーのサーモン養殖があります。鮭として日本の寿司市場を狙いマーケティングしていたようですが、サーモンとして売り出すことに方向転換。チリでのサーモン養殖は日本の商社の戦略で育てられました。天然ものと比べて寄生虫の心配もなく、より安定した量をコントロールしながら育てられる養殖は市場で受け入れられていきます。
養殖だから価格を抑えたものを供給するのではなく、工夫して付加価値の高い、値段が高いものを養殖で作るという流れです。
冷凍技術
大きく変化をもたらした技術に冷凍があります。オリンピックを気に冷凍技術が整備され、それまでは流通の間に溶けてしまいアンモニア臭がしてしまっていたような冷凍の技術改革が行われます。遠洋漁業で釣られたマグロなどは日本に戻った頃には鮮度が落ちてしまい、刺し身用には使えなくなり、マグロといえば魚肉ハム、ソーセージなどの加工品として使われるのが一般的だったようです。
フロンR22と呼ばれる冷凍技術が安定してくると、獲ったマグロを船上でマイナス60度で凍結して港へ輸送し、港でも冷凍倉庫に保管します。そうすることで刺し身用として大化けしました。
こうすることで美味しいシーズンに捕獲されたマグロを冷凍保存しておき、十分な在庫を持ちながら市場へ供給できるという流通の自由度も上がりました。
魚屋のシステム
冷凍技術が整っても鮮魚ビジネスである魚は店頭に並べばその日のうちに売り切る必要が出てきます。そのために値引きのタイミングや社員の調整などリアルタイムに悪い部分を見つけ的確に改善が求められます。
また、売り場についても変化が生まれてきました。GINZA SIXなど鮮魚食品売場が消滅し、店舗面積が小さくなってきています。魚屋はバックヤードが店全体の90%に及ぶこともあり裏で解体や切り分け作業をする事が多い食材です。
この流れから、バックヤード機能を都内のいち拠点に集約させて、そこで解体、用意したものを都内の販売先へ流通させるという仕組みを作ります。そこで誕生したのが荻窪にある東信館。
そこにIT化もうまく成功させることができ、リアルタイムで店舗ごとの売り出し方やPOSシステムの整備などができるようになったことも大きなものでした。
HACCPと呼ばれる安全に十分配慮したシステムを導入すること、また顧客のニーズに併せて調理時間に応じた商品種類を整備し、調理をしなくてよい刺し身で販売したり、調理を少ししたい層に併せて切り身や料理キットにして販売など展開していきます。
感想
鮮魚ビジネスというかなり制約が多い商材に対して、昔からの習慣を改善させていき現代に適合させていくことで利益をしっかりと生み出している取り組みがとても印象的でした。
魚というと漁業の段階で排他的経済水域というものがあるものの、国際競争ど真ん中でかつルールを守る人もいれば守らない人もいるような中々難しい現場に思います。欧州ではその点規制が機能しており、漁獲量も制限され持続可能性に注意ができているようですが、アジアはまだまだ整備されていないそうです。
家畜と比べるとこれだけコントロールしにくく変動要因が多いアイテムだと計画が立ちづらいように思います。世界で食肉文化の方が安定して利益が出せるというのも頷けます。
ただ、そんな中にも健康アイテムとしての魚料理が注目されてきており、養殖による高付加価値化もおきています。寿司屋のように高級路線にも振れる魚料理に今後どう拡がりを見せていくのか注目したいです。
📚 Relating Books | 関連本・Web
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- https://amzn.to/45yPOUf 鮭の歴史 (「食」の図書館) 単行本 – 2014/10/27 ニコラース ミンク (著), Nicolaas Mink (原名), 大間知 知子 (翻訳)
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