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ファイナンス思考――日本企業を蝕む病と、再生の戦略論 | 朝倉 祐介 (著) | 2025年書評10

2025年は財務、会計、ファイナンスなどの話題に逃げないようにしようと思ったこともありファイナンス思考を読みました。

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日本起業を蝕んでいる考えにPL脳があると朝倉さんは指摘します。PL脳とは目先の売上や利益を最大化することを目的化することであり、未来的というよりは比較的短期の目標にフォーカスすることです。

PLというのは財務諸表の一つである損益計算書のことですが、その数値を良くする事に経営者、投資家、従業員、メディアが囚われてしまっており起業が根源的価値を高めていくような長期的な活動がうまくできていないと言います。

一方、タイトルにあるファイナンス思考とは将来に稼ぐと期待できるお金の総額を最大化しようとする発想です。価値思考、長期思考である未来志向であると定義しています。

📒 Summary + Notes | まとめノート

会社の企業価値を最大化するために

本書でファイナンス思考のために挙げられている4つのポイントは次です。

  • 事業に必要なお金を外部から最適なバランスと条件で調達
  • 既存の事業・資産から最大限にお金を創出
  • 築いた資産を事業構築のための新規投資や株主・債権者への還元に最適に分配
  • その経緯の合理性と意思をステークホルダーに説明

PL脳とはなにか

会社に属する人間であると「増収増益」「売上を増やせ、利益も減らすな」「減益になりそうだからコストカット、出張を停止」「無借金が良し」「黒字であればOK」などという話を聞いたりします。

PLとは一定期間の売上高や利益といった計算をしているだけであり、一定期間の会計的指標を示しますが長期的な視点は組み込まれておりません。

上場企業というのは財市場、労働市場、資本市場という3つのポイントがありましたがこれらは常に利害関係が一致するものではありませんでした。「よい会社」という言葉は経営者からなのか、労働者からなのか、資本家からなのかで定義が変わるものです。

上場企業に課せられた報告として4半期に一度財務報告をしなければならず会社の評価にはこれらから判断されるようになります。

アメリカで大きく羽ばたいたGAFAに代表されるようにアマゾンはずっと赤字を続けてきていたことや、インスタグラムはフェイスブックに買収されるまで13人だけの僅かな利益をあげるだけの企業でしたが多額の買収費用をかけてフェイスブックが買収しました。GAFAのの特徴には次があります。

  • 短期的なPLの毀損は厭わない
  • 市場の拡大や競争優位性の確保を重視し、大規模な投資をする
  • 投資の目線が長期的で未来志向

PL思考で問題となるのは、数字を綺麗に見せにいくために調整が行われています。

  • 売上を大きく見せようと仕入れや納入タイミングを調整する
  • 利益を嵩上げするように研究開発費の割当を調整する

これらの調整が行われない部分は現金、キャッシュフロー計算書になります。これが「利益は意見。キャッシュは現実」と言われる所以です。

ファイナンス思考とは

ファイナンス思考とは企業価値に焦点を当てます。上述した4つのポイントを、CFO、CEO、IRなどが別れて計画的に実行していく必要があります。

ファイナンス思考が必要なのは時代とも関係します。高度経済成長期は売上だけを求めていけば市場規模も大きくなっていたために問題が顕在化しにくいものでした。いまや時代は変化し低成長の時代になるため経済成長に頼らない経営の重要性が増してきています。

不確実性が上がってきている時代に市場の変化も早くなっているためにPLと離れた考えが求められています。

事例として挙げられている企業として先ほど触れたアマゾンがあります。

アマゾンは長年の間赤字、無配企業であり投資を積極的に行ってきていました。株主レターにおいてもこの正当性を伝え株主に積極的に説明を行い、そのことこそが価値を最大化できるという文言が使われています。株主レターで触れられていることの例としてキャッシュフローの最適化があります。アマゾンは営業キャッシュフローが年々拡大していきながらも、研究開発費用が増え続けていたために利益はほぼ0の水準を前後していましたが、研究開発費+利益で見ると年々拡大していました。またホールフーズ買収時にはキャッシュが潤沢にある中で金利の低い環境であったためか資金調達して買収費用に割り当てました。キャッシュコンバージョンサイクル(CCC)は驚くべきスピードで、コストコなどでも優秀なのですが数日というところ、アマゾンは−30日などつまり支払いより販売代金の回収の方が早い状態を作り上げました。

日本国内の成功事例としてはリクルートJTなど既存ビジネスから戦略を持って新規事業を作り出す、もしくはM&Aをした例が挙げられています。

PL脳の問題点

PL脳の問題には例えば売上至上主義があります。売上高の最大化を目標にすると例えばですが、前年比の成長があることが求められる、そのために利益を無視しても売上を伸ばすことが良しとされるなど合理性の無い活動に陥りがちです。

いやいや、この時代そんな会社があるのか?と思う所ですが、日本製鉄の改革はまさに高性能、高価格帯の利益が出るものへのシフトであり、さらにはトヨタを訴えるなどの活動に至りました。

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携帯端末の販売や白物家電など、特に製造業は設備を導入すると売れなくなった時にその固定費が重たくのしかかってきます。

PL脳に陥りやすい原因は6つ挙げられています。

  • 高度経済成長期の成功体験
  • 役員の高齢化
  • 間接金融中心の金融システム
  • PLのわかりやすさ
  • 企業情報の開示ルール
  • メディアの影響

倒産数の増加は日本では往々にして悪い事とされますがアメリカでは上場企業が7000社ほどあったとこど20年間で3600社まで減ったのに対して日本では3700社ほどあり市場全体の時価総額ではアメリカは3倍にまでなりました。

感想

短期思考にならず長期思考で成長を描いていけるのかというのは個人、企業ともにある課題だと思います。優秀な人材を抱えられる事ができている大企業などでは特に経営・管理サイドの人材の優秀さが試されると思いますが、PL脳に陥る6つの要因は人材の流動性が低い日本では起きやすい現象であるというのは構造的ジレンマでしょうか。

製造業などの固定がかかる企業とIT系などの固定費が掛かりにくい企業では難易度も異なると思いますし、M&Aの文化が薄かった日本ではアメリカより新陳代謝が弱いのは自然な事に思います。会社員レベルでできることとしてはそういった組織に属さない、収入源の分散化などだとは思いますが、個人レベルでのPL脳(既存の仕事環境や年収の価値を高く見てしまう)によりアクションできない事も自然に感じます。

会社員としてファイナンス思考を持つことは有効ではあると思うものの、実行するためのハードルは非常に高く、経営レベルの立場に居ないと本書のような意思決定部分に至れない問題はあると思います。ただそのように経営感覚が薄いと組織の判断基準としてファイナンス思考や長期思考で仕事場としての評価できないと思うのでファイナンス思考を理解して可能な範囲で実行することはとても重要に感じました。

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