認知科学を専門とする今井むつみ先生と言語学者の秋田喜美先生の書く言葉の認知に関わる本になります。
言われてみると言葉とは不思議なものでメロンという言葉を聞けばメロンの色や模様、匂い、果肉の色や食感、味など思い出すことができます。かたや経験が無いとそういった特徴を思い出すに至らないのかと言うと説明文などから想像して記憶することもできます。
この記号接地問題という現象は認知科学の未解決問題であり、もともとはスティーブンハルナッドにより提唱されはじめたものです。
本書のもう一つのテーマはオノマトペです。言語学の世界ではあまり重要でないテーマとして扱われてきたオノマトペですが、オノマトペがいかに言語学的特徴と持つものなのか、本書ではみていきます。
記号接地問題とオノマトペを通じて言語習得や言語進化について理解をしていきましょう。
📒 Summary + Notes | まとめノート
オノマトペとは
オノマトペとはもともとギリシア語起源のフランス語からできており、onoma:名前、ことばにpoieo:作るを組み合わせた名前を作るという意味の言葉です。日本語はオノマトペが豊富であるというような風潮があり、確かに日常で何気なく耳にしたりします。
オノマトペは擬音語であったり形容詞のような感覚の言葉など幅広くつくられており、外国語をみても「写し取る」ことばとしてのオノマトペは多くあるようです。インドネシアのカンペラ語では「ンブトゥ」はものが移動した際に立てる音、韓国語の「オジルオジル」はめまいを表したりします。
オノマトペとは感覚イメージを写し取る特徴があり、またそれはアイコン的に写し取る性質があります。
面白い事に言語的背景がなくても外国語のオノマトペについてイメージを読み取る事ができ、「マルマ」と「タケテ」というオノマトペについて図のイメージを見せてどちらがマルマであるのか?と調査すると、曲線的な図形の方をマルマ、尖った図形をタケテというように印象との合致ができていました。音象微的意味と表現されるものです。

引用:https://blog.miraikan.jst.go.jp/articles/20191224post-104.html
オノマトペだけでは無いのかもしれない特徴に、特定のグループで遊び的な使い方が広がり定着したような言葉があったり、離散性というような特徴もあります。例えば「コロコロ」というような言葉が「コロッ」「コロン」「コロリ」などと類似した表現などです。
言語習得
言語習得においてオノマトペが重要な役割を果たしている事は子どもとの会話でオノマトペが多く使われている事を考えると容易に想像できます。言語の習得に役に立つのかという明確な事はまだ分かっていないようですが、オノマトペにより言語習得の足場が整えられていると考えられています。
- 音と形の一致・不一致が分かる
- ことばの音が感覚にあう
- 名づけの洞察
面白い表現では「言語の大局観を与える」と書かれており、なんの知識も無い子どもに複雑な言語の足がかりとなる感覚をつけてくれています。
オノマトペを足がかりとして言語の習得サイクルには、抽象的な言葉に対して次第に抽象性が無くなっていくようなサイクルがあります。「一次的アイコン性→恣意性→体系化→二次的アイコン性」といいます。この記号接地性を身に着けていく後に言語習得の2つめのフェーズがあり、本書では推論「アブダクション推論」という点に着目します。
オノマトペとしての「ポイする」という表現は「捨てる」という意味合いになります。ただし、広義では入れるというような意味合いもあり時に「片付け」「軽くなげる」というような意味を持ちます。この違いを感覚的に推論をしながら身につけていくという言語習得が行われます。経験の丸暗記だけではなく、経験を通じた推論を繰り返し行っていくものです。
言語習得とは、推論によって知識を増やしながら、同時に「学習の仕方」自体も学習し、洗練させていく、自律的に成長し続けるプロセスなのである。
学問的に推論というと3種類存在します。(以下chatGPTより)
| 推論の種類 | 方法 | 確実性 | 例 |
|---|---|---|---|
| 演繹推論 | 一般から個別 | 確実 | すべての人間は死ぬ → ソクラテスは死ぬ |
| 帰納推論 | 個別から一般 | 確率的 | カラスA, B, Cが黒い → すべてのカラスは黒い? |
| アブダクション推論 | 最も合理的な仮説を導く | 仮説的 | 地面が濡れている → 雨が降った? |
子どもの言語習得の様子を見ると言い間違いや表現の間違いなどをしておりアブダクション推論により言語習得をしている様子がわかります。
なぜ人だけが言語習得をするのか?という問いに対してアブダクション推論の有無が想像できます。チンパンジーなど他の動物ではアブダクション推論を殆どすることがなく、演繹推論が殆どであるために、人のような間違いを起こす効率の悪いアブダクション推論をする必要が無かったと思われます。
言語の本質
言語の本質的特徴
- 意味を伝えること
- 変化すること
- 選択的であること
- システムであること
- 拡張的であること
- 身体的であること
- 均衡の上に立っていること
感想
言語習得の課程を理解する事ができる本でした。人類だけが言語習得する理由には一見非合理的な推論工程を経て間違いをおかしながらも洗練させていくというプロセスを経ており、いわゆるPDCAサイクル的な考えとも言えると思います。
言語習得における感覚的な部分とその感覚の正確性を上げていくという点ではアブダクション推論と呼ばれる工程が大事であると考えられるために、間違いを犯しながら勉強していくという課程の理解が言語学習者にとって心づけられる情報に思います。
では言語習得のためにどのようにすればよいのか?というのは大人が知りたいポイントに思います。読んでみて感じたのは意識するポイントは3つほどあります。
①学習言語との接触時間を増やす:聞く、読む、話す、書く時間の絶対量
②意識的推論の時間を増やす:解釈
③推論のフィードバックを得て正確性をあげる:理解の程度確認
3つの点を意図的に行うようにするために習慣に落とし込む事が必要であり考えられる方法にはそれぞれ以下のようなものでしょうか。
①その言語にふれる時間を記録する
②試験問題を解く、考えを発信する
③試験結果を見る、間違いの指摘を受ける
考えてみると子どもが言葉を長年かけて無意識的に身に着けていく課程には親の粘り強いフィードバックがあります。大人になってからの語学学習者にとってはこのように粘り強いフィードバックを貰える存在を確立する事が難しいことでもありますが、今やChatGPTやSNSの発展などで機会は作ろうと思えば作れるようになってきたのは嬉しい時代です。
本も読みたいですが語学習得にむけた地道な勉強も2025年のテーマに思っています。
📚 Relating Books | 関連本・Web
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