PIVOTなどでおなじみの中室牧子先生ですが、前著の学力の経済学から10年ほど経ちいよいよ新刊が発表されました。 中室牧子先生のスタイルの素敵さも魅力的ですが、著書も毎回面白く時代に合致したような内容を専門家が分かりやすく表現してくれています。
📒 Summary + Notes | まとめノート
将来の収入をあげるために
収入をあげるために、なんてまさに時代に即してなおかつ親が大好物そうなテーマです。収入をあげるためには子どもの時に何をしておけばよいのか?
スポーツ経験 アメリカの高校で課外活動をしていた人たちが同級生と比べて収入にどのような違いがあったのかを追った研究があります。考える理由には①採用で有利になる②忍耐力やリーダーシップが身につくという事が想定されています。
スポーツをすると勉強がおろそかになるのでは?という疑問がありますが基本的には時間配分の代替効果と呼ばれるように、スポーツをする時間と勉強の時間が食い合うものではなく、受動的な活動の時間を減らすことにも繋がります。
また自尊心を育むとの影響やリーダーになることでリーダーのスキルを習得し、いわゆる「社会性」と言われるような人々をともに過ごすことに喜びや楽しみを見出すという訓練ができている事が考えられます。
非認知能力
非認知能力といえばポールタフの本を思い出しますが本書でも非認知能力について語られています。
非認知能力の影響は40〜60歳で最も出てきており年収に差を生み出しているとの研究結果もあります。また収入だけではなく、結婚や寿命とも関係しているとの話もあります。
ヘックマン教授の研究によると「非認知能力は学力を伸ばすが、その逆は起こらない」という事も見つけました。非認知能力の中で収入と関係があるものには①忍耐力②自制心③やり抜く力が言われております。
非認知能力を伸ばすにはどのようにすればよいのでしょうか?ドイツの研究では音楽が一つテーマとなっていたようです。また好奇心を持つことも重要とされています。他者への思いやりも一つ考えられることです。
教師によって非認知能力が伸ばせるのか?という事を研究したものにチェティ教授のものがあります。その結果では学力と非認知能力の両方を伸ばせる先生は少ないものの、約10%ほどの先生は非認知能力を伸ばすことに長けており、どちらかを伸ばすことができる先生は約30%ほどになるようです。非認知能力を伸ばすことができる教師はまだ明確に解明されていないもののいくつか考えられている事があります。
例えばやり抜く力に関して求められる教師のポイントは4つ挙げられています。
- 目標を設定することが重要なこと
- その目標を達成するためには、努力することが大切なこと
- 失敗や挫折を建設的に考えることが重要なこと
- 人間の能力というのは決して生まれつきのものではなく、努力によって変えられること
非認知能力を高めることと親が教育にかける時間をみた研究もあります。特に母親が教育に関わる時間を増やす事が重要とされており、子どもと過ごす時間を促す方法に学校が親にパンフレットを配り参考になるテストの時期や本の読み聞かせの方法などを連絡することで改善されるという話もあります。
面白いことに保育所と祖父母による時間の過ごし方を調べた所、語彙力は祖父母と過ごすことでより育つ一方でそれ以外の非認知能力と考えられている部分は保育所で育つ方が鍛えられると言います。
勉強できる子にするためには
勉強できない子を勉強できるようにすることは教育での大きなテーマでしょう。3つの秘訣は次になります。
- 目標をたてる
- 習慣化する
- チームで取り組む
受験勉強などで志望校に行けなかったからグレるなど聞くことがありますし、そういった友人をみてきた人も多いかもしれませんが、希望を持てるような事もあります。というのは、第一志望のビリと第二志望の1位どっちが良いのか?という比較において1位に居たほうが良い結果が収入の面でもあるようです。
1位でいることによりメンタルヘルスとしても安定して、先生などの扱いが良くなるなどの理由も想像できます。こう見ると受験勉強で失敗しても大事なことは与えられた環境で希望を持ちベストを尽くして努力する能力なのでしょうか。
日本の教育について
日本の教育について色々と失敗であるとか周回遅れであるなどの言説が飛び交っております。教育の無償化と1人1端末という2つの政策について本書ではレビューされています。
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教育の無償化 教育の無償化について調べられた研究の一つに保育料の無償化を行ったカナダのケベックの結果では悪影響がみられています。メカニズムは不明瞭なのですが、例えば質の低下が考えられますし、親が接触する時間の減少なども示唆されます。
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1人1台端末 1人1台の端末をもたせる政策は日本でも行われていますし、他の国でも多くありました。コロンビア、チリ、ルーマニア、ペルー、スウェーデンなどで行われた政策では効果が無かったという結果もあります。 デジタル教材は本質的に学力を向上させる傾向があり、本質は習熟度にあった指導ができることいわゆる「個別最適化」が行われるためになります。 先生と教材が補完的な関係になることで良い結果となりますが、ただ単に与えるだけではうまく行かない、子どもはうまく扱いきれない事に注意が必要です。 子どもの探究心を失わせないようにデジタル教材を活用していく方法が鍵となります。
エビデンスを読み解く、活用する
エビデンスを活用するというのもなかなか難しいものです。EBPMのデータベースが本書で紹介されており、サイバーエージェントがEBPMの研究とされにコメントするような形で閲覧できるようになっています。
注意点として①信頼性の階層の理解②エビデンスは補助線にしかすぎない③絶対に覆らないものではない④地域による適合性があるなどあることに注意です。
またエビデンスを読む中でも統計的な手法がどのようなもので判断されているのか、など読み手のスキルも必要とされるものが多いのは事実でしょう。よく有名な人が言っているとそう思ってしまうような罠もあります。
感想
個人的なライフテーマでもある教育についての本であり、好きな中室牧子先生ということもあり楽しく読みました。教育の現場で科学的根拠というのは参考にできる面も参考にしにくい面もありそうな印象があります。中室先生は非常にバランス良く引用してくれてとても気になるテーマをまとめ上げてくれたと思います。
大人になって思うのは勉強の方法が勉強できていない事が多いなと思います。というのも生きていく中で何か必要な事が発生しその物事を勉強して成長していくというループをある種永遠と繰り返していくわけですが、そこに何か金銭的なアクション(塾に入る、英会話教室に通う、参考書を買う)で解決しようとしがちになり短絡的な解決策を得ようとしまいます。
目標設定とそれをコツコツこなして達成に向かって努力する、という事が根本的な部分であると思います。①目標設定と②努力習慣というものを一人ひとりの異なるケースに当てはめて実行するためにはどうすれば良いのかという点を探していきたいです。
子どもの時にもっと知りたかったなと思うのは、第一志望などに過度な期待を抱かない方が良いと言うことや努力の素晴らしさを認識する事でしょうか。もちろん結果を出すためにもっとどのようにしておけばよかったなどの反省をする機会は必要なのですが、落ち込むほどの時間は長い目で見るとほぼ必要無いように思います。10feetのFreedomでは「長い目で見たらかすみたいな問題」というフレーズがありますがまさにそう感じます。
就職活動ても第一志望という曖昧な認識で形成される夢みたいなものを作り上げ努力するのは良いですが、第一志望に入っても数年で辞める事も大いに有り得るので「縁が無かった」という便利な言い訳をして前向きに向かう訓練も大事だなと思いました。
📚 Relating Books | 関連本・Web
- https://amzn.to/4gseGSV いつも「時間がない」あなたに 欠乏の行動経済学 (早川書房) Kindle版 センディル ムッライナタン (著), エルダー シャフィール (著), 大田 直子 (翻訳)
