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チャイナ・イノベーション2 中国のデジタル強国戦略 | 李 智慧 (著) | 2022年書評#12

前回のチャイナイノベーションに引き続きチャイナイノベーション2を読みました。

上海に住んでいた事もありますが中国のデジタル戦略にはとても興味があり、昨今のデジタル事例についてまとめてあり、デジタル活用後進国の日本としてはとても学ぶところが多い内容ではないでしょうか。

📒 Summary + Notes | まとめノート

中国でのコロナ抑え込み

2020年年始にコロナが流行り始め武漢の友達に連絡したことを今でも覚えています。上海の友達とも連絡を取っており色々な話を聞いていましたが、中々大変な印象でした。

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中国ではオリンピックもあり今でもゼロコロナ政策をしています。世界中で最も早く困難に直面し、かつ分からない事ばかり、という過酷な時期であったのは確かだと思います。

中国のデジタル政策をまとめた本書は2021年3月に発売され、コロナ対策でどのようにデジタル技術が活用されていたかまとめられています。中国で最も有名なのはスマホアプリの健康コードではないでしょうか。位置情報から感染者との接触有無を調べられたり、ワクチン接種情報や体調変化についてまとめられたアプリは証明書の役割も示します。過去地下鉄のゲートでもチェックされていました。

次にデジタル消費券という電子クーポンにより消費が促されました。非接触で効率よく配布できる手法は郵送で活用するよりも素早く行き渡り、また購買活動のデータも活用できます。北京大学とアントグループにより消費行動は解析され、消費券による消費活動の促進効果も確認されています。これらのデジタル対応は近年のスマホプラットフォーム整備の効果といえるでしょうか。

中国のデジタル戦略を振り返る

本書では中国のデジタル戦略の歩みを7段階に分けています。

第1段階:情報インフラの整備時期(1978-1990) 863計画など

第2段階:インターネット化の転換時期(1990-2000) 973計画など

第3段階:情報下と工業化の融合を促進する時期(2000-2005) 国民経済と社会発展第10次5カ年計画情報化専門計画

第4段階:デジタル国家戦略の形成初期(2006-2013) 2006-2020年国家情報化発展戦略

結果として2006年にインターネットユーザーが1.3億人だったものは2020年には9.4億人、農村においてもネット普及率は52.3%とインフラが整えられた効果がでています。

第5段階:デジタル国家戦略の形成初期:ネット強国(2014-2016) 国家イノベーション駆動発展戦略網要

第6段階:デジタル国家戦略の確率段階(2017-現在) 第14次五か年計画 AI活用など

2025年までに予定されている投資規模は以下の通り。

  1. 5G 2.5兆元
  2. 産業インターネット 6500億元
  3. AI 2200億元
  4. データセンター  1.5兆元
  5. スマート交通インフラ 4.5兆元
  6. スマートエネルギーインフラ 900億元
  7. 重点技術インフラ(超高圧送電網など) 5000億元

約10兆元に及ぶ経済刺激策になると見込まれています。

5カ年計画でかなり高い目標が毎度設定されているのですが、恐るべしはかなり達成率が高くあるという点でしょうか。

アントグループの上場延期

2021年は中国テック企業にとって辛い年となったのでは無いでしょうか。一つの引き金となったのはアリババやアントグループでしょう。影響力をつけたアリババグループのジャックマーの発言が物議を醸し、上場を予定していたアントグループは突如として延期を発表します。

規制当局が目をつけたのは様々な噂がありますが、一つの理由は32兆円に及び与信残高だと言われています。テック企業としての上場を計画しておりましたが、実質は金融事業が主であり、他の金融機関同様の規制を受けるべきだと良い、融資額に対して1/3の原資を確保して置かなければならないという規制に適合しないという点が問題とされています。コロナなどで融資を希望する中小零細企業が増える中でさらに原資の割合は減っており資本増強が必要とされます。

スターバックスの逆襲

中国でスターバックスはとても人気である一方、マックカフェやラッキンコーヒーなどのライバル勢力が多くデジタル活用で遅れを取っていました。そんなスターバックスはアリババと提携しデジタル活用を開始します。デリバリーサービスを開始し、アリババのスーパーHemaの店舗に営業スポットを設置。ポイントシステムの連携や嗜好情報も活用します。上海にあるロースタリーではARを活用しコーヒーについて学べるコンテンツを提供しました。

アリババと提携すると多くのオンラインショッピング情報に加え、位置情報など多くのデータベースを持つことから多くの恩恵を受ける事ができます。

アリババのさらなる挑戦

アリババは次世代製造システムの構築にも挑戦しています。製造業により効率的に受注から製造、発送までを目指しデジタル工場を整備しています。

jp.alibabanews.com

ファーウェイの悲劇

以前読んだ半導体の地政学にもファーウェイの苦悩がまとめられていますが、本書でもまとめられています。

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米国からの締付けは一企業に行われるものとは思えないレベルであるのは確かで、役員の逮捕、最先端の半導体の供給網を絶たれます。その中でも必死に模索し活路を見出そうとしています。

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ファーウェイは中国で最も人気の会社の一つで清華大学の学生は毎年ファーウェイに多く入社しています。世界中からエリートを集め、研究開発費も多く投資。IBMアクセンチュアコンサルタントを受け欧米に学ぶ姿勢も多くあります。知的財産も重視されており国際特許出願は非常に多くあり、また国際的にパートナーを結ぶ中国デジタル分野で最もグローバルに活躍する企業です。

ファーウェイの日本向けウェブページを見ていて驚いたのですが、日本でも多くのデジタル発展教育を行っているようで、素晴らしい企業のように思いますね。

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アテンションファクトリーTikTok

TikTokの中毒性の高さはとてつもない威力があります。今や世界でもっとも人の時間を奪っているアプリとも言えるでしょうか。

TikTokを運営するバイトダンスは数多くのアプリを生み出しています。TikTokはその中の一つです。2020年のMAUは4540万人、2019年に米国で投じた広告費用は300万ドル/1日とも言われています。

15秒ほどのショート動画はエンタメ要素の暇つぶしに効果的に人々の時間を奪っていきます。その背景にはAIによるリコメンデーションやローカライズした表示など高度に計算されたバックグラウンドがあります。

本書で前述のファーウェイも同様なのですが、バイトダンスの組織はものすごくイノベーションが生まれやすいように構成されているように見えます。アプリを爆速で生み出す技術力、透明性の高い社内文化、上下関係を極力なくすような試み、戦略志向の目標管理、社内コラボレーションの促進、手厚い待遇、と優秀な人材が集まり、大企業病に陥らないシステムがとても良く機能しているように思います。

個人的な見解ではありますが、中国の文化的に失敗や変化にとても強くさらにバイタリティーもあります。この変化に寛容な文化はアメリカも違った質ではありますが同様なもので、非常に魅力的に見えますよね。

デジタル人民元構想

今最もホットでかつ注目されているのはデジタル人民元だと思います。

ホリエモンも最近の動画で言及し、世界発の法定通貨のデジタル化について注目しているようです。

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2020年10月から実施した2ヶ月かんの実験ではオンライン、オフライン関係無く決済可能であり、多くのプラットフォームで実際に利用されていたようです。

法定通貨をデジタル化すると、紙幣発行、流通、回収など多くが効率的になります。そこには大きく7つのメリットがあると本書では書かれております。

  1. デジタル経済及びキャッシュレスの発展
  2. ビッグデータの金融システム以外での蓄積
  3. 決済市場の競争を促す
  4. 自国通貨の主権を守る
  5. 金融リスクを防止する
  6. 大規模災害への対応
  7. 現金流通における運用コストの削減

中国国内的な話ですと、マネーロンダリングや脱税防止の役割はとても力を発揮しそうですし、デジタル化することによりブロックチェーンとして台帳保管しておけば資金の流れを追うことができ、犯罪操作に役立つと思われます。

注目すべきは国外の話で、中国元をデジタル化することにより対外的な資金の流通がより低コストで効率的にできることにより中国元の活躍の場が広がる可能性が示唆されます。

現金流通のコントロールもより簡易的にできますし、デジタル法定通貨の活用は今後自然な流れに感じますし、中国のようなスマホ社会の地盤があれば親和性もとても高いです。この取り組みが今後世界の金融にどう影響を与えていくのかとても楽しみに思います。

📚 Relating Books | 関連本・Web

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  2. https://amzn.to/34AR9zM TEAM OF TEAMS <チーム・オブ・チームズ> Kindle版 スタンリー・マクリスタル (著), デビッド・シルバーマン (著), クリス・ファッセル (著)
  3. https://amzn.to/3AY3JW2 米中戦争前夜――新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ 単行本(ソフトカバー) – 2017/11/2 グレアム・アリソン (著), 船橋 洋一・序文 (その他), 藤原 朝子 (翻訳)
  4. https://amzn.to/3sghLy9 AI世界秩序 米中が支配する「雇用なき未来」 (日本経済新聞出版) Kindle版 李開復 (著), 上野元美 (翻訳)
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