2019年の書評第二弾です。
今回はAI Superpowersを読んだ。
著者のKai Fu Leeについては以前多少書いたのだが、現在Sinovationという中国のベンチャーキャピタルにて代表をしている。
シリコンバレーの有名企業での就業経験を持ち、AIやシリコンバレー、そして中国のテック動向に非常に深い知見を持ち、これからのAIの発展について、アメリカと中国の比較について書かれている。
1.中国のテック企業について
筆者が力を注いで書いている内容の一つに、AI分野における中国企業の躍進について書かれている。一昔前まで、中国といえばCopycat(パクリ企業)が横行しており、代表的なもので人物にWang xingという人物が居る。現在では、中国で最も成功している企業家の一人として知られているのだが、彼の活動の原点は2003年まで遡る。FrindstarというSNSの草分けのサービスに目をつけたWangはデザインにアレンジを加え中国市場向けにサービスローンチ。あえなく失敗することになった。
2年後それでもめげなかったWangは今度はデザインをそのままコピーしFacebookを元にしたXiaonei(現Renren)をローンチ。(Mark Zuckerberg Productionという文字すらコピーしていたという逸話も有る)大ヒットしたXiaoneiはサーバー負荷もあり早々に売り払われる事になるのだが、Renrenはニューヨーク市場に740ミリオンドルで上場。Wangの次なるコピーはTwitter。Fanfouという名前でTwitterと同じロゴスタイルを使用しローンチ。次はGrouponを模擬したMeituanをリリース。
結果としてMeituanはGrouponを遥かに超える大企業となり、30ビリオンドルにてIPOした。(Grouponは2.58ビリオンドル)
ここでKai Fu Leeが述べているのは、Wangの成功について単にアメリカの人気サービスをコピーをしたという点ではないということである。同じようにコピーされた何千ものサービスの中から生き残った最も成功しているWangはグラディエーターであり、パワフルに闘い抜いた事に注目している。
アメリカは"Mission-driven"の文化であるが、中国は"Market-driven"つまり拝金主義的に利益追求する文化である。このメンタリティーにもたらされる柔軟性、アイデアでなく利益を出すことが正義という考えが中国の武器であるとしている。
2.Google Chinaでの挑戦
2005年からGoogle Chinaを率い中国市場への参入を開始した。2008年、中国のニュース番組にて衝撃的な内容が報道される。Google Chinaの広告がニセ医薬品の広告をしており非常に怪しい製品を売り出しているとニュースが流れた。信頼は著しく落ち、その原因を即座に調べたチームが見つけたのはなんと、ニュースで報道されたサーチエンジンはGoogleのものではなくニセサイト。フォントのわずか一部が違うのみの巧妙なニセサイトによりGoogleの信用はどん底に落ちたようだ。
3.Qihoo vs QQ
Qihoo360とTencentの闘いも記されている。2010年テンセントはメッセンジャーアプリQQがダウンロードされているPCに対して自動的にQihoo360のアンチウイルスがダウンロードされるように仕掛けた。それにより、ユーザーはQihooのユーザーとして残るか、Tencentを使用するのか選択を迫られ、大きく2分されることになった。勝者の居ないバトルであり中国中に衝撃を読んだ出来事である。
先程述べたRenrenも大きな闘いがあった。Kaixin001と呼ばれるSNSはwww.Kaixin.comのURLがすでに他社が所有しているため、Kaixin001としてローンチ。そうするとライバルであったRenrenはKaixin.comのURLを買い取り、Kaixinに登録しようとしたユーザーをRenrenのユーザーへと奪い取った。結果としてRenrenはニューヨーク市場へ上場。
殺すか、殺されるかの激しい闘いの市場で生き抜く難しさが描かれている。
4.AI時代へ向けて
AI-driven経済において重要な事として、グラディエーターであること、企業家精神があることよりも、膨大なデータを重要としている。それに加え、AI専門家、政府からのサポートが残りの重要なビースとしている。
膨大なデータを持つ企業はどこであるか。筆者はGoogle、Facebook、Amazon、Microsoft、Baidu、Alibaba、Tencentの7社が該当する企業としている。
その中でも、例えばWechatではO2O(Online to Offline)がとても得意であり配車サービス、モバイルペイメント(Peer-to-Peerの支払い)、自転車シェア、など実世界での人の活動記録がトレースでき膨大なデータ量を所有している。その点、アメリカの企業はUberは配車サービス、というように包括して大きなデータを所有する企業が居ない。そのため中国での膨大なデータ量がAIの燃料として期待されている。
専門家に関して、数年前まではアメリカが圧倒的に飛び抜けており、中国では時代遅れの情報しか無かったようだが近年文献からも中国勢の勢いが止まらないとのこと。
5.中国のスタートアップ企業
Face++は顔認証システムを作り、顔認証でのサービスを目指す。中国では実使用もされ始めており、犯罪対策にも活用されている。
また、iFlyTekは自動音声認識システムを開発している。有名なものはトランプ大統領のスピーチから音の分析を行い、中国語を話すトランプ大統領を作り出している動画だ。
6.AI時代での4つの波
インターネットAI、ビジネスAI、認知AI、自動化AIの4つ。インターネットAIというのはYoutubeのレコメンデーションのようなもので、すでにかなりの場面で使われている。AlibabaやAmazonのプラットフォームでもレコメンデーションのアルゴリズムとしてAIが実用されているとのこと。
Bytedanceが運営するToutiaoは中国のBuzzFeedと呼ばれ、アルゴリズムのより記事編集されている。O2Oプラットフォームの充実性などから今後アメリカと中国のバランスはインターネットAI分野にて中国が抜きん出ると予想している。
ビジネスAIでは今日アメリカが大きくリードしているが今後はその差は縮まり、認知AIでは中国がすでに圧勝、自動化AIにおいてもMomenta、JingChi、Pony.aiなど現時点では負けるものの中国勢の台頭が目立つとのこと
7.AIにより人はどうしていくのか
Kai Fu Leeが最も力を入れ書いたとみられる点は、AIにより人はどうなるのか、という部分にあるように思う。
自身のガン闘病体験、仕事により家族と向き合えなかった事などを振り返り、より誰か大切な人と過ごしたり愛情を注ぐという事ができるのではないかと予想している。
AIが得意なのは簡単な判断であったり、人が時間を奪われてしまっていたような部分にAIが用いられ、人はより大切な物事に目を向けることができるのではないか。
この考えには大いに同意で、心なしか落合陽一氏の言う機械と人が親和性を持ち融合して生きていくのではないかというような視点と一致しているように思う。(デジタルネイチャーという考え方)
記憶が不確かで読み返しても上手く見つけられなかったストーリーにて、中国の大学に公演に言った際に、講義室は溢れかえり、窓からは学生が覗き込み何か少しでも勉強して帰ろうという姿勢、情熱がすごかったそうだ。夜の11時になるとそれまで静まり返っていたキャンパスの到るところに学生が外にぞろぞろと出て、街灯の下で教科書を読む姿に感心したとのこと。確かに数年前まではアメリカが圧倒的にパワーバランスを持っていたAIの時代は、ハードワークと情熱、政府の支援、多額の資金、O2Oによる膨大なデータ量など条件の揃う中国が今後勢力を強めるのではないかと記されている。
今までコピー大国と知られていた中国に対して新たな視点が与えられる非常に興味深い一冊であった。
以下の書評もとてもおもしろく拝見しました!他の書評やTech系の話題もとてもおもしろいです!
参考)
https://www.techinasia.com/chinas-successful-founders-afraid-copycat
360 VS Tencent: unfair competition produces no winner - China.org.cn
【顔認識】「Face++ Detect API」でローカル画像から一定条件を満たす顔を切り取る in Python - Qiita
5000人の逃走犯を検挙した中国 Face++の顔認識AI…その原点はゲームアプリだった | ROBOTEER | ページ 2
中国初のグローバルアプリTikTok運営するByteDance —— 創業者は35歳、武器はAIリコメンド | BUSINESS INSIDER JAPAN