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アジア・ファースト 新・アメリカの軍事戦略 | エルブリッジ・A・コルビー (著) | 2025年書評64

以前読んだ本で登場したコルビー氏の著書を読みました。

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コルビー氏はアメリカ国防に関するシンクタンクに所属しており、現在国防次官に就任することになりました。彼の戦略は「拒否戦略」と言う手段であり別の本で詳しくまとめられており、本書ではその拒否戦略の必要性やそこに至る考えをライトにまとめられております。

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📒 Summary + Notes | まとめノート

拒否戦略とは

拒否戦略の提唱者でもあるコルビー氏。ひとことで言うと「中国の覇権を拒否する」という戦略です。一路一体は有名な経済政策であり、経済的な中国の依存度・重要性を世界中で広げていく方法で、人によれば侵略と表現するものもあります。

拒否戦略で重要なポイントは経済力のパワーが源となり軍事力に繋がるという考え方です。現在GDPでは依然としてアメリカが世界一でありますが、その割合は引き続き横ばいで中国の成長が著しいものです。

(図表-1)世界と日本のGDP(米ドルベース)/(図表-2)日米中の一人当たりGDP(米ドルベース)

引用:https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=80500?pno=2&site=nli

また、電力消費量でみるとすでに中国の方が多くなっており、GDPに現れない指標では変化が既に起きています。つまりはアメリカ一強時代は終わっているということです。

さらに、アジアはこれから重要性がますます増えていく地域です。インドはその一つです。コルビー氏の視点でいうと重要性が増すアジアにおいて最も経済大国である中国が覇権を握れる状況が生まれつつあり、そこに対してアメリカは覇権を望んでいないというものになります。

そのため、特に勝利することを望んでいるわけではないですし、バランスさえ保つことができればそれが良いという考えになります。

そこで重要になる事が軍事力の均衡です。軍事力の整備・拡大のスピードがとてつもなく早い中国に対して、拒否できる状況が近隣国、特に日本にあるのか?というと足りていないというのがアメリカの考え方であり、アメリカのサポート無しにその均衡は保てない。そのため各国は軍事力を強化する必要がある、またアメリカ自身も自国の軍事力に費用負担を上げることは社会情勢としても難しさがあります。

拒否戦略の背景

コルビー氏はシンガポールで生まれ。銀行員の父親の影響で日本で6歳から13歳まで過ごし、西麻布のインターナショナルスクールと調布にあるアメリカン・スクールに通っていました。その後香港で過ごしニューヨークに戻るとハーバードへ進学し、アジア史を学びます。

その後イラクでの任期なども体験しイェール大学の法科大学院へ進みます。その後海軍分析センター(CNA)や新アメリカ安全保障センター(CNAS)などで従事。共和党側に従事していたコルビー氏ですが、これらは民主党寄りのシンクタンクでありながらも所長のロバートワークが尊敬できる人物であり居心地良く仕事に望めたため働いたと言います。

トランプ政権が始動した2017年にペンタゴンに戻り国防戦略をまとめる立場になります。任期を終えるとシンクタンクラソンイニシアティブと立ち上げます。

パワーバランス

現在、アメリカと中国の立場は変化しつつあります。コルビー氏のスタンスとしてネオコン的な「アメリカがグローバルの覇権を目指す」という立場ではなく、例えば冷戦時のようにマルクス主義が世界の半分に影響を与え、結果として民主主義を志向したアメリカの生活が豊かに成長したという状況では今はありません。

世界のパワーバランスとしてヨーロッパの重要性は年々低下してきています。またロシアも中国と比較すると経済規模は8分の1と低く、ヨーロッパの周辺諸国もロシアと比較して経済的に豊かです。PPP(購買力平価)でみてもドイツ単独でロシアよりも大きいです。

アジアの重要性はとても高いと主張します。

拒否戦略として重要なのは「反覇権連合」という考えです。特に日本や韓国、フィリピンという国がそれぞれ自立して自らが守れる状況にある軍事力を持っておく事が必要であり、アメリカ一国で現状その役割を担う状況から変わる必要があると言います。究極的にはアメリカの世論に依ってはアジアから完全撤退する状況もあり得ます。

感想

国防知識が無さすぎるためにいくつか読んでみようと思った中で手に取った一冊でした。最近はアメリカの歴史などの本も読んだりするのですが元々移民の国でもあり他国への干渉を控えていた立場であり北米大陸での覇権を中心に成長してきましたが、世界大戦以降アメリカが行う世界の警察というような立場が強まりました。

時代は変化し、帝国主義時代が終え、支配国は独立をしていき土地を広げていくという政策が無くなってきた現代において、その独立を保つ役割をしてきた世界の警察という立場もコストもかかるし世界一の経済大国という圧倒的な立場も薄れてきた所でもっとコストをかけるべき事があるという世論も想像できます。

軍事力で暴れた国であるドイツや日本の処理として、軍事ではなく経済成長へと舵を切り軍事縮小を行った時代から変化して、それぞれが今度は自立する時期であるということでしょうか。

もし仮に自身がアメリカ人であったら、他の国の仲裁に費用を割いている場合ではないというのは理解できますし、その費用がより国内の教育や福祉に使うことができればと思うでしょう。

一般的に軍事費の割合を増やしていくということは世論と逆行するために、アメリカが世界の警察という立場を辞めるとなると、各国は軍事費を上げていくという方針を取らなければいけなくなります。確かにアメリカの立場から見ると、もう維持するのは限界だから各国で自立して欲しいという所はとても理解できます。そうなると現実的には国債発行して軍事費負担を賄うしか解決策が想像できない所ですが、これから各国はどう対応していくのでしょうか。