戦時中日本が考え出したコンセプトである大東亜共栄圏。帝国主義に伴う欧米列強の支配からアジア地域の解放を銘打った画策は、その背景に経済的自立を求めた結果でもありました。
総力戦とは何か。第一次世界大戦より前の戦争は、主に軍隊と軍隊とによる軍事力の闘いであった。しかし、第一次世界大戦では軍事力だけではなく国家の技術力、生産力、宣伝、国民の戦争遂行意思などの国家資源のすべてが投入された。端的に言えば、これが総力戦である。
陸軍は「帝国国防資源」のなかで、長期戦での勝利の鍵は戦時に自足経済を経営できるかであり、常に自足経済へ移行できるようにするべきと記しています。
第一次世界大戦後、日本は世界の「五大強国」と呼ばれるようになったが、日本の銑鉄の生産は1925年〜29年の年平均で132万トン、世界総生産の1.5%でしかなかった。アメリカが3920万トン、で世界総生産の約46%を占め、ドイツが1160万トン、フランスが954万トン、イギリスが618万トンと、その差は歴然としていた。
もちろん鉄だけにとどまらず、主要資源においても似たような事が言えました。当時から言われていたいわゆる「持たざる国」という立場であったのが日本です。
日本が経済自給圏を形成するのは困難であり、脆弱な経済しか持たずにアジアで盟主になろうとした矛盾が明らかになるだろう。そのことが、近代日本の特質と現在にいたる日本とアジアの関係を考える有益な知見をもたらすと考える。
当時の日本が何を目指していたのか見ていきます。
📒 Summary + Notes | まとめノート
満州事変から
本書では1931年の満州事変を起点として書かれます。そもそも満州狙いを定めた理由には豊富な資源、主には食料、鉄、石炭などが揃っていたためでした。元々は関東軍が始めた満州事変でしたが、この豊富な資源を用いた日本、満州によるブロック経済の形成を目指していきます。
少し省略して言うと満州国の資源だけでは足りない、ということになり北支や東南アジアへの資源へと目を向けていきました。日本製鉄はこの頃官民で創設。東南アジアのジョホールからも1920年代から輸入をしていました。
東南アジアを含めたブロック経済構想は1937年ごろからあったとされておりましたが、日中戦争が起きた後、物質および成否購入の送金額約40億円のうち半分の20億ほどはアメリカとの貿易でした。この際に、日中戦争のことを「支那事変」という局地的紛争名を使用したわけにはアメリカとの貿易・金融・海運・保険に関する関係を継続したい理由があります。
「東亜新秩序」として日満支におけるブロック経済を目指しましたが、この声明に対して英米はよく思わずに中国支援を強めました。その後第二次世界大戦に入ると、日本は大きな戦闘が無かったものの、ポンド政策を転換してドルとの交換を停止するにあたり、ポンド圏への通商関係がほぼ途絶。英米との貿易は行き詰まりをみせ物資も減り始めます。
ドイツがオランダに侵攻したことをきっかけに東南アジアにある蘭印(インドネシア)、仏印(ベトナム、ラオス、カンボジア)など進出を目論みます。
その頃第二次近衛内閣、松岡洋右ら1940年には不介入という意思から転換させ、「大東亜共栄圏」の声明を出します。戦後に行われる講和会議を見越して日本の勢力圏の拡大を測りました。そうなるとアメリカ側は対日輸出規制を強めることになります。
短期的には、戦略物質の応急的な確保のために輸入で購入し、長期的には日本企業が進出して、資源開発に直接参加することで安定的に物質を確保しようとしたのである。東南アジアからの物資獲得のためには、このような二段構えの政策が採られていた。
大東亜共栄圏構想
1940年9月に締結した三国同盟によりドイツイタリアにはこの構想を認めさせた一方で他の英米含めた列強にはまだ認められていませんでした。
松岡洋右が想定していたことに、近い将来ヨーロッパの戦争が終結し、その後の体制は大国がそれぞれの共栄圏を持ち、戦後世界に複数存在する共栄圏の一つとして大東亜共栄圏を構想します。満州国と似たような思想ですが、各地域の国が独立し主権を持った中で日本が「保護」するということを目指します。
1941年12月に真珠湾攻撃と同時に英領マラヤに侵攻。フィリピンの米空軍基地も襲撃し12月から始められた攻撃は2月中旬にはスマトラ島、シンガポール、3月にはジャワ島を占領しました。この後である1942年5月に大東亜建設審議会の設置が進みます。
主要な物質・製品の生産目標も鋼材、銅、鉛、石炭、石油など計画が始まり、野心的な数値が設定されます。同様に農産物なども目標が設定されていきました。
各地域の独立をスローガンとしていたためにその宣伝活動などを行ったのですが中々うまく行かず、また日本の南軍では独立派に対して反対の活動が生まれるなど内部でも統率が取れていない状況となりました。各地では結局日本軍が内面指導するために、形式的な独立を与えたところで民心獲得はできず、効率的に経済統制ができないとの考えでした。
各地の当時の情報もまとめられており、シンガポールであれば華僑の人口が多く、共産主義との結びつきを尋問による「反日分子」のあぶり出しを行います。「シンガポール大検証」と呼ばれる虐殺が行われ4〜5万人が虐殺されたとしています。これは過去に読んだリー・クアンユーの回顧録にも書かれていた出来事で、若き日のリー・クアンユーはこの虐殺を間一髪逃れることができた人物です。
日本は官民を挙げて各地域の経済政策を行っており、南方へ多くの日本企業が進出していきました。特には財閥系であり、油田などの開発には力がいれられました。
1943年に戦況が悪くなると、フィリピンなど独立へ向けて動き出し、自発的な協力を見込みました。ただしその中でも日本内部で異なる意見が止まらず海軍などは消極的で自主性の付与による資源の獲得を困難にさせるとし作戦を阻害する動きがありました。東條英機が大東亜を凱旋したのもこの時期になります。
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引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/大東亜会議
その中で例えばタイは日本の戦況が悪化することを見ており、大東亜会議には出席せず戦後の秩序を見越した動きをみせました。
運営の実態
経済圏確率のために立てられた計画はどのようになっていたのかというと機能していませんでした。例えば、綿花は2000万担の需要がありましたが41年当時は500万担。南方での綿作地の拡大に期待していましたがそのためには現在サトウキビなど他の作物を生産している場所の転作が必要でした。東洋紡績、大日本紡績、呉羽紡績、カネボウなどの技術者が乗った大洋丸は東シナ海で連合国軍に撃沈されます。ネグロス島などでは技術者が到達できたものの、現地の農民は関心を示さず、結局は目標の20%ほどしか生産できませんでした。また、フィリピンでは元々運営されていた糖業に大きな影響を与え戦前100万トンを超えた砂糖の生産量は2万トンに及ばない量まで激減。鉱山でも同様に失敗をしています。
また、船舶が必須になるこの経済圏において、保有船舶はみるみる減少。輸送が滞ることになります。そうすると今度は満州などへ開発計画を移していきますがここでも設備不良、原料に労働力不足、と困難を極めます。満州での食料増産のために、本土から満州へ開拓団が送り込まれるものの、戦争も激化するなかで目標は達成することができず計画の半分の収穫量でした。
独立を後押ししたフィリピンでは、日本の戦況の悪化から支配する日本の軍事力が低下すると、対日協力者の態度も変化し自ら主導権を握ろうとします。ビルマやインドネシアでも同様で日本との対立勢力がうまれ、事実上大東亜共栄圏の構想は破綻していきます。
感想
大東亜共栄圏とは何であったのか、という問いに答える本でした。大東亜共栄圏に伴い多くの企業が東南アジアに進出していったという歴史を知るのは面白かったですが、計画や理念の素晴らしさとその結果のギャップが苦しいものを感じます。
1945年頃の世界人口は25億人、アメリカは1.5億人に対して日本は0.7億人。そしてアジアは14億人ほどと考えると人口比でも難しいさが想像できますしそこでこれだけ大きな経済圏構想の肝となる物流も遮断され、孤立する拠点も多くあったと思うと浅い思考でも無理そうな事が見えます。
ただし、当時は戦争の歌は売れ、戦争の事を書けば新聞が売れ、国民感情としてもイケイケドンドンであったと思うとストップがかからない状態なのだろうと想像できます。もちろん軍の圧政もあると思いますし、首相が暗殺されるような時代なので発言にも気をつけなければいけないことは想像に易いです。世論が必ずしも正しくないことを感じられます。
現代まで大きな歪を生み出したイギリスの政策が良いとも思えないですが、程よく拠点のみを支配していき帝国主義で成功を収めた欧州の巧みさも理解できますし、そこに対抗しようと無理が必要だったのも分かります。今の世の中がどうできたのか勉強することができる本でした。
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