ブラックスワンで有名なナシーム・ニコラス・タレブが率いるファンド、ユニバーサインベストメンツに関する本になります。ブラックスワンでも語られてまれに起きるリスク(テールリスク)に備える投資スタイルになります。
ユニバーサインベストメンツのHPはこちら
コロナによる彼らのリターンは4000%という誰にもできないリターンを叩き出しました。
Universa's 3,126% Black Swan Return Is Legit (But With an Asterisk)
📒 Summary + Notes | まとめノート
パニックを起こせ
スピッツナーゲルとタレブはテールリスクの備えるファンド、ユニバーサインベストメンツのメンバーです。コロナの大暴落が始まった際にスピッツナーゲルはミシガンの家におり、ユニバーサのヘッドクォーターであるフロリダとやりとりをしながら自分たちのポジションを監視していました。
ユニバーサが本領発揮するのは下落局面であり、これまでも2008年の金融危機、2010年のフラッシュクラッシュ、2011年の米国債格下げ、2015年の市場暴落などで大きなリターンを得てきました。
1月の時点でパンデミックの事を知り、ホワイトハウスに居る知り合いを通じて認識があるか尋ねると大事ではないと捉えられていました。早めに封鎖をしなければ大事になると思いタレブはバーヤムと小論を書きます。
この解決法は「今パニックを起こせ」。負の連鎖を断ち切るためには早い段階でパニックを起こすことを提唱し、封鎖、ソーシャルディスタンスの提唱を行いました。アメリカは中国からの入国制限をこの小論発表後に決断しましたが、当時のトランプ大統領は「奇跡のように」ウイルスは消滅するなどと発言するなどホワイトハウスの対応はちぐはぐでした。
スピッツナーゲルとタレブのトレーディング戦略は3つの方針から決まります。
- 衝撃的な大きな事象が勢力をふるう未来を予測することは非常に難しい
- 極端な事例の破壊力は多くの人の想定を越えている
- 利益よりもドローダウンの方が重要
スピッツナーゲルのトレーダー人生初期に損切りの大切さを口酸っぱく伝えられます。「喜んで負けろ、そして次にいけ」と言われ人間の本性に逆らうような教訓を身に着けていきます。
タレブ自身もナチスで最も身近にヒトラーを見てきた男であるシャイラーが世界を揺るがす事象の発生を予期できなかったこと、レバノン内戦の発生を予期できなかったこと、ウォール街のトレーダーが予期できなかったことなどから将来何が起きるか分からないという教訓を得ました。
タレブは自身が書いたダイナミックヘッジングという難解な著書から教授となる誘いを受けた後に、がんの闘病生活があり、そこからヘッジファンドを立ち上げる構想を持ちます。そこでスピッツナーゲルと出会いエンピリカが始まります。
ドラゴンハンター
本書でユニバーサインベストメンツと同様に焦点を当てられているのがフランスの物理学者であるディディエソネットです。ソネットは危機の研究に魅了され、地震研究も行っていました。株式市場のリスクに対する研究も行っており1997年の夏にそのシグナルを発見します。タレブのブラックスワンは予測ができないとの考えですが、ソネットはリスクを予測しようというスタンスであります。
タレブはブラックスワンの予測にソネットからの情報も活用しており、電話ですぐに出てくれる関係であると言います。
ユニバーサ
エンピリカの後に、金融市場にファットテールは普遍的な特性(ユニバーサル)であるという意味を込めてユニバーサと社名をつけ会社を立ち上げます。2007年にひっそりと開始した当初、大学基金と年金基金の2社の投資家しかいない状態でした。
タレブは当時少しずつ関心を集め、ウォール街でも認知を集めておりましたが決して多くの資金を獲得できるほどのものではありませんでした。
2008年の金融危機で事態は一変します。大暴落に伴いユニバーサは115%のリターンを叩き出し、他の投資家達が大損する中で輝きを放ちます。ブラックスワンファンドとして一気に認知を広げました。
「私たちには次のような問題があります。コントロールできるという幻想です。世界は理解可能で予測可能だと私たちは思っている。」
「株式市場において、過去50年間の利益のうち50%は最もボラティリティの高かった10日間でもたらされました。デリバティブにおいては、過去20年間の利益のうち90%がたった一日でもたらされました。」
感想
ユニバーサの手法はプットオプションを買い細かな損を出しながら大きな暴落時に大きな利益を得る手法になります。最近では他のファンドですがSPDのティッカーでETFが発売されており一般の人にもアクセスできる商品も出ています。
スピッツナーゲルの発言は常に暴落の警戒を伝えます。
またスピッツナーゲルはヘッジファンドが行うポートフォリオ理論など様々なセオリーは虚構でもあるとしており、細かな損を重ね大きな利益を得る彼が学んだ細かな損を喜んで出す事を実践することで大きな利益を得ています。
個人の投資家として真似できることは多くない印象ではありますが、実際に高いリターンを出している手法を見ると投資のスタイルに取り込む事ができないか見直すきっかけになる本でした。
スピッツナーゲルが言うにはバリュー投資の手法と類似する所があり、人々が価値を感じていないものに投資するいわゆる逆張り投資に近いものと似ているというのも興味深い観点でした。
バリュートラップと呼ばれるようにバリュー投資で中々結果が出ないケースもあるので一長一短ではあると思いますが、新しい視点として投資の引き出しを増やしていければと思いました。
📚 Relating Books | 関連本・Web
- https://amzn.to/4fT6vyq 入門経済物理学: 暴落はなぜ起こるのか? 単行本 – 2004/2/1 ディディエ ソネット (著), Didier Sornette (原名), 森谷 博之 (翻訳)
- https://amzn.to/4a7021T ウォール街の物理学者 (ハヤカワ文庫 NF 433) 文庫 – 2015/6/4 ジェイムズ・オーウェン・ウェザーオール (著), 高橋璃子 (翻訳)
- https://amzn.to/3PrbOKO ハバナの男 Kindle版 グレアム グリーン (著), 田中 西二郎 (翻訳)
- https://amzn.to/4jaAQM0 ベルリン日記―1934-40 (1977年) (筑摩叢書) - ウィリアム・シャイラー (著), 大久保 和郎 (翻訳), 大島 かおり (翻訳)
- https://amzn.to/4fONIo3 第三帝国の興亡〈5〉 ナチス・ドイツの滅亡 単行本 – 2009/4/12 ウィリアム・L・シャイラー (著), 松浦 伶 (翻訳)
- https://amzn.to/4j2i9tT Dynamic Hedging: Managing Vanilla and Exotic Options (Wiley Finance) ハードカバー – 1997/1/14 英語版 Nassim Nicholas Taleb (著)
- https://amzn.to/40qErOr 科学的発見の論理 上 単行本 – 1971/1/1 カール・ライムント・ポパー (著), 大内 義一 (翻訳), 森 博 (翻訳)
- https://amzn.to/3BQKC5f 超予測力―ー不確実な時代の先を読む10カ条 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫) 文庫 – 2018/5/2 フィリップ・E・テトロック (著), ダン・ガードナー (著), 土方 奈美 (翻訳)
- https://amzn.to/40pCWQy 60年代の過ぎた朝 (アメリカ・コラムニスト全集 19) 単行本 – 1996/3/1 ジョーン ディディオン (著), Joan Didion (原名), 越智 道雄 (翻訳)
- https://amzn.to/4fVbgHQ ブラックスワン回避法 (ウィザードブックシリーズ) 単行本 – 2016/9/17 マーク・スピッツナーゲル (著)
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